【7回戦-1】

対経済大学戦オーダー

1 会田(二) 

2 佐谷(三) 

3 中野田(三)

4 鍵山(二) 

5 バルボーザ(一) 

6 大谷(一) 

7 北陽(四) 



「私も勝つから、背負いすぎないで」

 鍵山の言葉に、蓮真は一瞬目を丸くした。そして、大きくうなずく。

 鍵山と蓮真は、ここまで共に1敗。二人が踏ん張ってきたおかげで、最終戦まで全勝でこられた。そして相手は、同じく全勝の経済大学。勝った方が優勝である。

 中野田は明らかに調子が悪い。会田と大谷は、まだエースと呼べる位置まで来ていない。頼れるのはやはり蓮真と鍵山なのだった。

 蓮真の様子は明らかにおかしい。だが、彼には頑張ってもらわなければならない。鍵山にできることは、声をかけることぐらいだった。

 「県立大は、まだビッグ4の幻影に縛られている」と鍵山は感じることがあった。全国2位になったという実績。勝利にこだわるオーダー。すでにビッグ4がいなくなってずいぶんと経つが、傾向としてその息吹はまだ残っている。

 だが、今の部はビッグ4がいたころとは違うはずだ。成長途中のメンバーたちで、いかに勝っていくか。鍵山は心の中では、この大会で負けることすら別にどうってことはないと思っていた。野村と覚田が抜けた穴は、それほどに大きい。成長の途中だと思えば、負けも糧になる。

 これから戦っていくうえで、猪野塚やバルボーザの成長が絶対に必要になってくる。だから、「もし私が部長だったら、二人をずっと出し続ける」と鍵山は考えていた。

 そして結局のところ、全ては「蓮真の負担を軽くしてやりたい」という思いへとつながるのだった。このままでは、彼はすり減っていつか潰れてしまう。そんな心配をしていたのだ。

 自分にできることと言えば、「もう一人のエースになること」だと鍵山はわかっていた。蓮真に頼らないチームにしてあげなければ。自分がそんな優しさを有していることに、時折彼女は戸惑うこともあった。

「中野田さんも、そんな下向かないでください」

「お、おう」

「バルも、リラックス」

「ハイッ」

 両隣に声をかけて、鍵山はゆっくりと着席した。

「私も、ね」



 もう少し、このチームにいたい。

 指しながら、北陽は考えていた。四年生になり、学業は忙しくなっている。就活もある。そろそろ、引退という選択肢が頭をよぎっている。

 ここで負ければ、全国大会には行けない。引退するにはちょうどいいタイミングとなるだろう。続けるには、勝つしかない。

 当たりとしては、「七番目同士の真っ向勝負」になった。経済大学は強いメンバーがそろっており、楽な当たりは一つもない。自分が負ければ、相当苦しくなる。

 ビッグ4時代を知るのは、もう北陽で最後の一人だった。全国で2位という栄光。彼らがいなくなり、地区大会最下位、B級に落ちるという経験もした。学年でたった一人となり、必然的に部長になった。

 「こんなにいろいろ経験したの、俺ぐらいだよな」と北陽は感じていた。そして、まだ新しい経験をするチャンスは残っている。

 対局は中盤に差し掛かっていた。「ここからは人生で一番集中する」と決意し、北陽は盤面へと没頭した。

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