【6回戦-1】
対香媛大学戦オーダー
1 会田(二)
2 佐谷(三)
3 中野田(三)
4 鍵山(二)
5 バルボーザ(一)
6 大谷(一)
7 安藤(三)
「なるほどねえ」
北陽は菊野の話を聞いて、深くうなずいた。
菊野が説明したのは、経済大学の七将、秋山についてだった。これまでの成績、戦型、対局中の様子などについてである。
安藤が採った作戦は、「最終戦に備えて北陽に休んでもらう」というものだった。今回経済大の七将として出続けているのは、一年生。データが少ない。それに対して北陽は四年生であり、相手の持っているデータも多いはずだ。そこでその差を埋めるべく、「準備時間」を設けたのである。
簡単な選択ではなかった。なぜならば、香媛大学戦では七将戦を取ることが大事だと考えられたからである。相手は三将と六将にエースを置いていた。ここに当て馬も考えられたが、外されると大変なことになる。それに対して、ここまで1敗の七将は変えてこないと考えられた。予想しやすい場所で計算するのが得策、というのが安藤の考えだった。
覚田や北陽の部長としての采配を見てきた安藤だったが、彼らと比較して自分には軍師としての才能はない、と考えていた。他校の予想オーダーもかなり外している。ただ、冷静に考えて他の同級生よりは向いているかな、とも思っていた。誰が部長に向いているかと言えば、確かに安藤なのである。
「そういえば一年生の時も七将だったな」と安藤は思い出した。部員が8人しかおらず、入部したばかりの安藤も大会に出ることになった。成績は1勝4敗。大学将棋部の強さを知ったとともに、1勝できたのが嬉しかったのを覚えている。
もう、それで喜んでいられる立場ではない。
昨年の春は優勝を逃した。チームはまだ、発展途上だと思う。今年入ってきた一年生のためにも、もっと完成度の高いチームにしたい、と安藤は考えていた。そのためには「安藤という駒」も確立しておかなければならない。
盤上には、相矢倉の同型が現れていた。勝負所は、ここからである。
「いやあ、すごいなあ」
高岩は、会場を見渡しながらつぶやいた。
「だろ。出たくなった?」
「ちょっとまだ、それは困ります」
猪野塚が笑いながら高岩の背中を叩いた。
二人は高校時代からの先輩後輩である。猪野塚に誘われて、高岩は将棋部に入部した。
「それがさ、出たら楽しいんだぜ」
「先輩は目立つの好きですもんねえ」
「まあな!」
高岩は、これまで試合のある部活に入ったことがなかった。将棋も趣味で指していた程度だ。将棋の大会があると聞いた時も驚いたし、メンバー表に名前を書かれることも予想外だった。「出る可能性がある」と考えると、怖くて仕方がなかったが、「まあ、三番目だからまず出ないだろ」と猪野塚に言われてほっとした。
猪野塚には将棋で勝ったことがなかった。そんな先輩が、レギュラーではない。とんでもないところに来てしまったと思ったが、星川や閘といった同級生たちもレギュラーではなかったので、安心した。
「勝てますかねえ」
「勝つよ。なんかさ、そういうチームなんだわ」
「そういうものですか」
「そういうもんだ」
高岩の視線の先には、バルボーザがいた。同級生だが年上で外国人、そして初段。いろいろと稀有な存在だ。そんな彼が、大事な試合に出場している。もちろんチームメイトとして応援はしている。しかしなんとなく、あんまりかっこよすぎても困るな、と高岩は考えていた。
ちなみに彼の中で、どれだけ勝っても大谷はかっこよくなかった。
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