【5回戦-2】
「大将は会田君で行く」
安藤部長がそう言った時、会田はひっくり返りそうになった。全く予想していなかったのである。
会田は一年生の最初の大会からレギュラーで、全国大会でも4勝5敗の成績を挙げた。自分で考えても、レギュラーとして出ることは疑いようがなかった。ただ、「大将」というのはそのチームの看板のような存在と思っていたので、自分には程遠いものだと感じていた。
「お、俺でいいんですかね?」
「適任だよ。実力があって、実績もある」
実際には、大将という名前に反して将棋の団体戦における「一番手」は微妙な位置である。上の方に名前が書かれると、出られる位置が限定される。そのため狙い撃ちがされやすい。大将がずれて出るには上に誰かの名前を書くしかなく、その人は下の方では出られない。ずれた以上は絶対勝利が求められることにもなる。
すでに一日目において、会田は一度副将で戦った。それは勝利したものの、大将で2敗している。期待に応えられているとは言えなかった。
プレッシャーは、ある。頼もしいはずの蓮真と中野田の三年生コンビが、目に見えて調子が悪いのである。北陽はもともと確実に計算できるタイプではない。二年生以下で、何とかするしかない。
岡川大学戦、大将席には猪野塚が座ることになった。相手の実力者に当て馬を当てたのだ。会田が昨日2敗しなければ、この作戦はとられなかっただろう。
勝てる位置にしてもらった。猪野塚には犠牲になってもらった。
ネット将棋指していた頃とは、まるで違う。会田は感情を表に出すことはなかったが、心の中には強い決意があった。「絶対に勝たなければいけないのは、ここだ!」
「よかったー」
安藤が、安堵の域を漏らす。
対岡川大学戦、4つ目の白星が決まった。中野田が勝利したのである。鍵山、蓮真、北陽も勝った。勝ってほしい人たちが勝ったのだ。
猪野塚と大谷は負けた。特に大谷は勝てる相手と思っていたので、心配だった。
「大谷君、ちょっと」
「……はい」
安藤に呼ばれた大谷は、気の抜けた返事をした。見るからに肩が落ちていた。
「チームが勝った時の負けは、数えなくていいよ」
「はい」
「次からが、本番だ」
残るは二戦。ここまで一敗の香媛大学と、全勝の経済大学との対戦となる。苦戦はしているものの、負けていない。チームが負けさえしなければ、優勝なのである。
「わかりました。気合入れます!」
「頼んだ!」
まだ表情が硬い。安藤は、不安だった。
「あ、会田君勝ちです」
菊野から報告が入った。これで5勝目。
「そっちは良かった」
「え、そっち?」
「あ、いやいや。忘れて」
安藤は、心が重たくなっているのを感じた。そこで、一つの決断をした。
5回戦
県立大学5-2岡川大学
1 猪野塚(二) ×
2 会田(二) 〇
3 佐谷(三) 〇
4 中野田(三) 〇
5 鍵山(二) 〇
6 大谷(一) ×
7 北陽(四) 〇
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます