【5回戦-1】

「七郎はスゴイよねー」

 うどんを口に運んだ後、バルボーザは言った。

「おっ、そう思うか」

「3勝1敗! やるじゃん」

 ひのくちが腕をぶんぶんと振る。

 一日目終了後の夕食。一年生三人と北陽が同じテーブルになっていた。

「まあな! 俺は県立大を全国制覇に導く男だから」

「日本人らしくないジココウテイカンだ」

 三人がワイワイ喋る様子を、北陽は微笑みながら見守っていた。

 今日の北陽の成績は1勝1敗。今回は、六、七人目は流動的という作戦だったので、だいたい予想通りの展開ではあった。それでも、もっとなんとかならなかったか、という思いは北陽の中にあった。これが最後の大会になるかもしれないのに、あまりにも気合が入っていない。

「北陽先輩は一年の時どうだったんすか?」

「え、俺?」

 突然自分に振られて、しばらく北陽の動きが止まった。

「初めての大会とか」

「あー、なんかね怖かったね」

「怖かったんすか?」

「強い先輩たちが五人いてね。優勝以外ありえん、って感じだった。一年生はみんな、機嫌損ねないようにビビりながら手伝ってた気がする」

「あれ、先輩以外にもいたんすか?」

「うちも最初は五人いたんだよ。皆辞めた」

「へー、そうなんすね」

 そういえばそうだった、と北陽は不思議な気持ちになった。今年の一年生たちのように、同級生でワイワイ盛り上がっていた時もあったのだ。一時期戻ってきた者もいるが、基本的にはこの二年間、北陽は同級生なしで過ごしてきた。

「お前らは……やめるなよ!」

「七郎なんだ急に」

「俺はバルちゃんやひの、それに優乃琉ゆのるや星ちゃんと全国に行きたいんだ!」

 あまりの大きな声に、別のテーブルの部員たちも大谷に注目した。そして、どこからともなく笑い声が起こり、広がっていった。

「そうだな、行かせてやんないとな」

 北陽は、ため息とともにつぶやいた。



5回戦

対岡川大学戦

1 猪野塚(二) 

2 会田(二) 

3 佐谷(三) 

4 中野田(三) 

5 鍵山(二) 

6 大谷(一) 

7 北陽(四) 



「うー」

 大会二日目が始まり、バルボーザはうなっていた。

 五回戦の相手は岡川大学。初日に三敗しており、優勝の目はない。下位チームからできるだけ星を稼ぐためのオーダーが組まれ、大将には猪野塚、七将に北陽が入った。

 作戦自体にはバルボーザも納得していた。しかし、体が戦いを欲していたのである。

 初日は一勝一敗。今の実力を考えれば、妥当な結果である。しかし、昨日の大谷の言葉が頭の中で響いていた。全国大会に行くとなれば、もっと強い人たちと戦うことになる。三年生には蓮真と中野田、二年生には鍵山と会田という絶対的なレギュラーがいる。それに対して一年生は、今のところ確実に戦力になっているのは大谷だけだ。

「うーうー」

 バルボーザ―は有り余る熱量を発散させるために、スクワットを始めた。「心がもやもやするときはとにかく動きなさい」が祖父からの教えだった。

「バルドーザ君、格闘技の試合前みたい……」

「柔術もやっていたらしい」

「そうなんだ」

 安藤と福原は、後輩の姿を温かく見守っていた。

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