【4回戦-2】

「やっぱりいいですねえ」

「えっ」

 星川が突然つぶやいたので、安藤も思わず声を出してしまった。

「福原先輩の対局姿、いいです」

「そ、そうか」

 星川はじっと、福原のことを見ていた。猫背の女性は、見るからに焦りながらバタバタと駒を動かしていた。

「安藤先輩はそう思わないですか?」

「いや、まあ、よく頑張っているとは思うけど」

「そうですよねえ、頑張っている姿がいいんですよ。鍵山先輩もかっこいいんですけど、ちょっと余裕がありすぎますよね。応援しなくてもやっていけるというか」

「んー」

 星川は一年生の中でも異色の存在で、「いつか女流棋士に会えるかもしれないから」と入部してきた。元々はアイドルが好きだったが、ある日偶然見た女流棋士に胸を射抜かれ、調べていくうちにどんどんはまっていったらしい。そして将棋のプロとアマの垣根が低いことを知り、「将棋部に入ればワンチャンあるかも」と思ったらしいのである。

「猪野塚先輩はどっち推しですか?」

「え、俺? 俺はアズサ派」

「やっぱりそうだと思ったんですよ」

 後輩たちの会話には加わりたくなかったもの、一応安藤も心の内でどちら推しかを考えてみた。福原とは一年生の時から共に頑張ってきた仲間であり、何回も救われてきたと思っている。蓮真と中野田は絶対的なレギュラーで、勝利という形で確実に部に貢献できる。安藤と福原は「それ以外のことで」共に貢献してきた。一人だったら、心折れていたこともあったかもしれない。

 鍵山は会田とともに、昨年は即戦力として活躍してきた後輩である。特に誰かと仲良くすることなどなかった蓮真に、初めてできた「関係の濃い」部員と言える。倒したい相手がいるという明確な目標がある点は蓮真に似ている。星川の言う通り一人でも道を切り開いていく強さがあるが、だからこそ仲間としてきちんと導いてやらなければ、と思うこともある。

 選べんな。それが安藤の結論だった。

「あ、佐谷先輩が頭下げましたよ」

「上二人負けか……」

 安藤は唇を噛んだ。バルボーザも劣勢であり、もう一敗もできない。ここで負ければ、明らかに自分の采配ミスだ、と安藤は思った。

 時計の音が会場に鳴り響く。控えメンバーたちは、じっと戦況を見守っていた。

「アズサ先輩勝ちです」

 近くまで寄って観戦していた猪野塚が、皆のところまで戻ってきて報告する。これで3勝3敗。残るは三将戦の福原だけだった。

 泣きそうな顔で、福原は指し続けている。頑張れ。安藤は心の中で言った。頑張ってくれ。

 突然、対局していた二人が頭を下げた。そばにいた菊野が皆の方を向いて、両腕で大きな丸を作った。

「良かった……」

 福原は、勝利した。チームも勝った。

「福原さん推しにならないとね……」

 安藤は、小さな小さな声で呟いた。



4回戦

県立大学4-3禅堂院大学

1 会田(二)×

2 佐谷(三)×

3 福原(三)〇

4 中野田(三)〇

5 鍵山(二)〇

6 バルボーザ(一)×

7 大谷(一)〇

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