【3回戦-2】

 広望舎大学にとって、県立大学戦は鬼門だった。ともにB級に落ちていた時期もあったが、県立大学はいまや全国5位。下位に低迷することの多い広望舎は、県立大戦も大負けすることが多かった。スーパーエースは不在で、総合力で戦っていくチームにとって、県立大戦でどれだけ戦えるかはとても重要なこととなっていた。

 今回は、中野田の調子が悪い。そして、四将鍵山の前には期待の新人が座っていた。五将は初出場の留学生。顔は怖いが、実力は未知数でチャンスは大いにあると思われた。そして七将の北陽。元々怖い相手ではなかったが、今回は特に覇気が感じられない。

 部長の楢山は副将席に座っていた。相手は佐谷蓮真。今や地区を代表する強豪選手である。前戦までは三将だったが、副将で出ることは予想していた。相手は大将を入れ替えていたし、確実につぶしに来る相手は自分だとわかっていた。「俺は生贄になる」と楢山は覚悟ができていた。

 広望舎大学では、様々な部活が活躍している。全国大会に行き、上位争いをしている部もある。そうした部には設備費や遠征費が支給されていたが、将棋部は「ゼロ」だった。楢山が先輩から聞くところによると、以前は部室もなかったらしい。

 高校生の時もそうだった、と楢山は思い出す。県代表になっても運動部とは違い、広報ページに載ったりはしない。ホームページの「主な活躍」欄では、野球部が県予選ベスト8でも載っているのに、将棋部の名前が載ったことはなかった。

 いつか、将棋部の活躍をきちんと評価してほしい。それが楢山の願いだった。そのためには、全国大会でよい成績を収めなければならない。そういうチームになるためには、県立大にも勝てるようにならなければ。

 楢山は蓮真相手に、中盤まで互角の戦いを繰り広げていた。今日の蓮真にはいつものような威圧感がなかった。大将、三将戦もまだまだ勝負はこの先、といった状況だった。

 いける。県立大に勝てる。



 バルボーザは、目を穴のようにして盤面を見つめていた。少し前までは苦しいと思っていたのだが、よく見るとどうやら自玉には詰めろがかかりにくい。相手に詰めろをかけられれば、勝ちの局面だった。

 外国では定跡書が入手しにくいため、序盤はよくわからないことも多かった。ただ、終盤は詰将棋のアプリで毎日のように鍛えていた。答えがはっきりしていることは楽しい。バルボーザの眼には、一筋の道が見えていた。

 それを、じっと見ている男がいた。すでに対局を終えた楢山だった。彼もまた詰めろは発見していたが、「見つけるな!」と心の中で叫んでいた。しかし、バルボーザは見つけた。その手を、指した。

 六将の大谷も、勝利していた。「県立大には、毎年いい一年生が入るね」心の中で楢山は嘆息していた。

 県立大に、6個目の〇が付いた。



3回戦

県立大学6-1広望舎大学

1 会田(二)〇

2 佐谷(三)〇

3 中野田(三)〇

4 鍵山(二)×

5 バルボーザ(一)〇

6 大谷(一)〇

7 北陽(四)〇

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