第4話 お風呂でのお世話をさせてくださいませ! ご主人様♡③

 ボクは、逃げ場のない湯船で後ずさりを試みようとして失敗する。


「じょ、冗談はダメだよ…。ボクらはまだ高校生だし、それに主とメイドの関係なんだから…」


 ボクは必死に抵抗を試みる。

 しかし、彼女の眼は何かが宿ったかのように、ボクの方を見つめてくる。

 彼女の息が荒い。


「今は、男と女の関係になりませんか? 私もその方が嬉しく思います…」


 そして、いよいよボクの目の前に差し掛かった時に、彼女は意識を失った。

 本当に目を閉じるようにそのままボクに倒れ込んだ。

 ボクは彼女を抱き起こそうとする。

 彼女の身体に触れた瞬間、


「すごく熱い…。彗さん、熱があるじゃないですか…!」

「…………」


 彼女は何も言わず、そのまま目を閉じている。

 ボクはそのまま彼女を抱き起し、服を着せて、彼女の部屋に連れて行った。

 彼女を布団に横にすると、ボクは彼女のおでこに高熱用の冷却シートを貼り付ける。

 彼女が頬を赤くしていたのは、恥ずかしさもあったのかもしれないが、熱のせいもあったらしい…。

 て、熱を出した時の彗さんってエロさがさらに倍以上になっていた…。

 あのまま、エロシチュエーションを展開されていたかと思うと、ボクの理性は確実に吹っ飛んでしまっていたかのように思う。

 今後は彼女との一緒のお風呂は勘弁願いたい。

 別に熱にうなされているという感じではなかったが、一応、熱だけは測っておいた。

 38.2度。

 若干熱が高いようにも感じるので、今は落ち着かせるのが最良の選択肢だと思う。

 彼女もボクの家からきて2週間。

 ひっきりなしにメイドとしての業務を行ってくれていた。

 もちろん、その間にも、学校の勉強もある。

 彼女にとってはこれまでもこなしていたと言ってはいるものの、それはたぶん、他の使用人がいる中での話かと思う。

 そうなれば話は別だ。

 これまでは手分けしてやっていたことを、彼女一人でやっていたのだから、仕事量はボク一人と言えども倍以上になったはずだ。

 それに必定以上に気を張って仕事をしていたのだとも感じる。

 今日のお風呂のこともそうだ。

 本人はしたことがなかったわけだが、強がって、一緒に入ると言い出した。

 それだけに恥ずかしさ以上に緊張もしていたと思う。


「本当にお疲れだったんだね…」


 ボクはそう言って、そっとドアを閉めた。




 3時間後―――。

 彼女の部屋のドアがゆっくりと開いた。

 当然、出て来るのは、彗さんだ。


「あれ、もう、立ち上がれるの?」

「あ、はい…。少しふらつきは残っていますが…」

「きっと脱水症状だね…。はい、これを飲んで」


 ボクはさっきコンビニで購入してきたポカリスエットのペットボトルを差し出す。

 彼女はちょっと弱弱しい感じでそれを受け取り、飲もうとするが、蓋が開けられない。

 ボクが手を添えて、蓋を開けてあげる。


「あ、ありがとうございます」

「まだ、動いたらダメなんだから、布団で寝ててよ。寝てるのがつらかったら、確か、君の部屋に使ってなかった座椅子があったでしょ。あれで、座るようにして、布団を腰あたりまで掛けておいたらいいと思おうよ」

「ありがとうございます」


 彼女はそういって深々とお辞儀をすると、そのまま部屋に戻っていった。

 時間的には、すでに7時ごろになっている。

 ボクはお盆に鍋とお椀を載せて、彼女の部屋に訪れた。


「彰様…。どうされたんですか?」

「いや、お腹減ってない?」


 その質問に呼応するように、彼女のお腹が鳴った。

 彼女は真っ赤に顔をして俯いてしまう。

 ボクはお盆を近くの台に下ろす。


「それほど料理は得意じゃないんだけれど、お粥くらいは作れるからね…。卵粥を作ってきたんだ」

「そ、そんな!? わざわざ彰様に…、申し訳ありません」


 シュンと小さくなってしまう彗さん。

 ボクはそんな彼女の頭を撫でて、


「今はしっかりと療養しなきゃ。これからもボクのためのメイドとして働いてもらうためには、早く良くなってもらわないと困るしね」

「本当にお優しいですね…。彰様は…」

「そんなことないよ。困っている人を見過ごせないだけ」

「それがお優しいというのです。このような優しさがどうして他の女性方には伝わらないのか…。残念でなりません…」


 そう言われても、一番困っているのはボクだったりするのだから…。


「どうしてかボクにも分からないよ…。はい。お粥。まだ熱いから冷まさないとね」


 といって、木のスプーンでよそって、口元で息を吹きかけ、冷ましてから彼女の口元に運ぶ。

 彼女はそっと口を開き、それを食べる。

 少し時間があって、喉がこくんとなった。


「本当に美味しいです。ありがとうございます」

「そっか、良かった…」


 ボクは続けて、彼女によそって食べさせてあげる。

 何度か繰り返すと、彼女は、


「かなり食べられました。今はこのくらいにしておきます。残りはまたあとで…」

「あ、うん。分かった。じゃあ、キッチンに置いておくね」

「ありがとうございます。それにしても、今日は少し残念なことをしてしまいました…」

「どうしたの?」


 彼女はボクの方を見て、


「本来なら、一緒にファーストフードを食べに行く予定だったのに、行けなかったことがです」

「それならいつでも一緒に行こうと思えば行けるよ…。これからも君はボクにとってのメイドなんだからね」

「うふふ…。そうですね」


 その笑顔は学校で見る清楚な松島さんの笑顔だった。

 エロシチュエーションに持ち込もうとしている彼女とは全然違う優しさに包まれた穏やかな表情だった。

 ボクは彼女の冷却シートを新しいものに変えて、部屋を出た。

 明日になれば治っているだろう…。




 部屋で一人になった彼女は、ポカリスウェットで喉を潤し、そして座椅子に深く座る。

 自身の真正面の壁に貼り付けられた写真を見つめながら、ふぅ…と深くため息をつく。


「これからも君はボクにとってのメイドなんだから…かぁ…。私では伴侶になることはできないのかしら…」


 ポカリスウェットをもう一飲みして、


「私はメイドとしてではなく、女として彰様のことが好きになって来てしまったのかも…」


 彼女はそう言って、自分の今言ったことを恥ずかしく思い、顔を赤らめ、布団に潜り込んだ。


「だって、私だって女の子なんだから……」


 彼女はそう布団の中で呟いた。



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