第5話 ご実家からの召集ですわ! ご主人様♡①
最近、ボクの朝は少し落ち着いたのかもしれない…。
「おはようございます。彰様。朝食の準備ができましたので、お着替えになられてリビングにおいでください」
この人がボクの専属メイドとしてボクの家(マンション)で働いている松島彗さん。
彼女はボクと同じ国芸館高校に通う高校2年生。
転校してきた初日からその清楚ぶりは目を見張るものがあり、まだ転校してから2週間が経っただけにも関わらず、先輩方から告白をされているところが目撃されているくらいの女性だ。
と、言うと、何だかクラスの子たちから、目を付けられそうだが、彼女のできるところは、クラスメイトにも平等に相手をしていて敵を作らず、むしろ味方を多く作れているところである。
そんな彼女は、訳あってホームレスとして生活を強いられそうになっていたところを、ボクが救いの手を差し伸べて、ボクの家に転がり込むことになった。
すると、親父からの一発OKで彼女はボクの専属メイドとして様々な雑務をしつつ、ボクとの同棲生活が始まったのであった。
そんな彼女の様子がここ最近おかしい。
いつもならば、下着姿でボクの布団にもぐりこみ、その名の通り、「身体」を使ってボクを起こそうとする。
しかし、ここ最近は、ドアを開けて一歩入り、距離を取った状態で朝の挨拶をしてくる。
エロシチュエーションも確かに減ってきている。
お辞儀をしたときに自然とIカップの谷間がポヨンと見えるとかは仕方ないとして、わざわざスカートの裾を捲り上げて自分の下着を見せようとする痴女同然のような行為は最近なくなってきた。
おかげでボクの精神状態はかなり落ち着いているといってもいい。
やはり、先日の「お風呂事件」のせいなんだろうか…。
あのとき、ボクらはシャワーを取ろうとしてバランスを崩して、そのままボクの上に彼女が倒れ込んでしまった。
お互い裸のまま。
あの時の彼女はかなり緊張した様子でもあった。無理もない。
彼女は使用人として、主と一緒にお風呂に入るということは初めてだったのだから。
そんな緊張もあってか、彼女は脱水症状に陥って、熱を出してしまった。
ボクが介抱した結果、彼女は翌日には熱も下がり、元気を取り戻したのである。
あれ以来、少し距離を感じる。
まあ、ある意味適切な距離感になったと言ってもいいのだけれど、あまりボクとも目を合わせてくれない。
ボクは制服に着替えてリビングに行く。
すでにボクの朝食はローテーブルに置かれていた。
今日はトーストとスクランブルエッグに焼いたベーコンとサラダ、そこにコーンスープだった。
いつも、極力コストカットをしながら、きちんとした食事を提供してくれるのは本当にうれしいし、ボクとしても体調管理がしやすくて助かっている。
彗さんはキッチンで洗い物をしている。
「彗さんはもう食べたの?」
「はい、いつも通り、毒見を兼ねて先に食べました」
毒見って…。
そういう言葉をさらっと使われるとボクがどこかのスパイに命を狙われているような錯覚すら覚えてしまう。
ボクはササッと食べ終え、キッチンに持っていく。
「彰様、片づけ食らい私がしますよ」
「ああ、いいんだ…、これくらい。自分でできることはやっておかないと身体も
そういうと、彼女は視線をボクと合わせずに俯いてしまう。
無言で、ボクの持っていた皿を奪うように洗い始める。
「彰様は学校に行く準備をなさってください。私も直に準備して学校に参りますので…」
「あ、そうだね…。ありがとう。じゃあ、準備するから一緒に行こうか? これも慣れるためには……」
「あの、今日はお友達と一緒に行く予定をしておりますので、先に出てもらっても構いませんか?」
「あ、そうなんだ…。それはごめん。分かったよ。じゃあ、ボクは準備を終えたら先に出ることにするよ」
ボクは彼女の様子を伺いたくて、顔を見たかったが、彼女はずっと俯いたまま、家事をこなすのであった。
自室で鞄の中身をチェックすると、そのまま皿拭きをしている彼女に簡単に挨拶をして家を出た。
学校に着いて、クラスで話す相手もいないボクにとっては、朝は読書の時間である。
本を開いて、様々なジャンルの本を読み漁っている。
メイド絡みのラノベなんかだったらお金を出してもいいが、それ以外は極力無駄遣いを慎むようにしており、今読んでいる本も何気なく学校の図書館で発見したものだ。
誰も話しかけてこないから、とてもスムーズに読んでいくことができる。
ボクにとっては最高のひと時だ。
そこに松島さんが入室してくる。
彼女はいつもクラスの前のドアから入室する。
いつも通り一人だ。
他のクラスのことでも仲良くなったのかな…。
彼女が席に着くと、たいていいつも周囲から彼女を取り囲むように人が集まりだす。
昼休みの約束がその大半だったりするようだが。
放課後は何かと理由を付けて帰宅するようにしているみたいだ。
まあ、買い物だったり夕食の準備だったりとメイドとしての業務があるからだと思う。
様子を伺っていると、どうやら、今日は昨日とは別のグループと昼食を一緒にするらしい。
女ってのは、こうやってグループになって何かをするの、好きだよなぁ…。
まあ、ボクにとっては関係のないことだったので、それ以降の話は聞かないことにした。
メイドにだってプライベートな部分があってもいい。
ボクはそう考えているから…。
翌日も、同じように彼女の起こし方は「普通」な感じであった。
いつもと違ったのはすでに制服を着ていたところくらいだろうか…。
ボクはいつも通り、何事もなく、朝食を食べ終え、荷物を持って家を出た。
学校に着き、自分の席に座ると、そのあとすぐに彗さんもやってくる。
いつも通りの陽キャに数秒で囲まれる光景。
ボクはいつも通り、鞄から本を取り出し、読み始める。
そこで、いつもとは違う声が聞こえてきた。
「えー、今日はお昼ご一緒できないの?」
「申し訳ありません。今日は少し相談に乗っていただきたい方がいらっしゃいまして…」
「へぇ~、松島さんでも相談したいこととかあるんだねぇ~」
「あ、はい…」
「これだけ成績優秀で清楚可憐な松島さんが相談とか…もしかして、恋の話?」
「あ、いえ…そうではないんですよ…」
そりゃそうだろう。
その成績優秀・清楚可憐というふたつの四字熟語のおかげで先輩方からの告白は引っ切り無しのようだからな…。
「で、その相談するのって誰?」
「いや、それをここでは…」
「別にいいじゃん! 減るもんじゃないんだし!」
「そ、そういわれましても、相談相手の方に申し訳ないので…」
「まあ、それは仕方ないっか~」
クラスメイトの一人がそう言ったあと、彗さんは立ち上がり、ボクの方に向かってきた。
いや、さすがに周りがいるところではマズくない?
「藤井寺くん、昼休みにご相談乗っていただけませんか?」
「へ……?」
ボクは間抜けな声を上げた。
いや、きっとさっきまで松島さんと話をしていた子たちも間抜けな声を上げていたに違いない。
ボクは全く予想していなかったからだ。
相談相手とやらがボクだとは…。
「松島さんの相談相手って藤井寺くんだったの?」
「そんな陰キャな奴に相談なんて何の話をすんの?」
「うあ~、名前聞くだけでマジキモ!」
こら! 最後の奴、こっちに面貸せ!
一度、打ん殴らせろ!
しかし、松島さんはどこ吹く風といった感じで、ボクにそう伝えると、ニコリと微笑み、自分の席に戻った。
いや、まあ、何を相談したいのか知らないけれど、あまり教室で目立つとウチの家にいるのがバレたら問題にならないかい?
そのあと、ボクは休憩時間に盛大に周囲から声を掛けられた。
周囲としては、ボクにとっての大きなスキャンダルとでも思ったのだろう。
声を掛けてくる輩は大抵、松島さんと話を従っている様子が全面に溢れ出ていた。
結局、ボクは橋渡し役的な何かを求められたのだろう。
ボクは、「何も知らない」と白を切りとおした。
その休憩になっていない休み時間が3回過ぎ去った後、彼女が手提げかばんを持ってボクの前に現れた。
「じゃあ、藤井寺くん、行きましょうか?」
「え、あ、うん…」
ボクはぎこちない返事をして彼女の後についていった。
もちろん、その時のクラスメイトの視線と言えば、なかなか耐え難いくらい冷たいものだったのだが…。
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