第5話 ご実家からの召集ですわ! ご主人様♡②
誰も使っていない物置のような教室にボクと彗さんは入る。
カチャ。
え…。彗さん、どうして鍵を閉めるの!?
「これでゆっくりとお弁当が食べれますね」
「へ…? お弁当?」
「ええ、お弁当ですよ? 今はお昼休みなんですからお弁当を食べる時間帯ですよね?」
「う、うん…そうだけど…」
「それとも、何か最近刺激が物足りないから、ちょっと激しいの欲しいなぁ…なんて思っちゃいました?」
ゴクリ。
ボクは無意味に喉が鳴ってしまう。
それを聞き逃さなかった彼女は、ボクの胸のあたりを突っつき、
「そんなにエロシチュエーションがたまらないんですか? ここでは無理ですけれど、家に帰ったらして差し上げましょうか?」
「い、いや、別にいいよ…」
あ、ダメだ。声が上ずっている。
彼女のメガネがきらりと光ったような気がした。
お弁当の入った手提げ袋を机に置くと、ボクの方に近づいてくる。
「ダメです。求められていることをしないのはメイドとして失礼に当たりますので」
ボクは…少し求めていたかもしれません…。
うう。これもボクが小説や漫画を読んで色々と意識しちゃうようになったからだろうか。
「それに、彰様はそういうシチュエーションがお好きのようですので…」
と、顔を赤らめながら、手に持っているのはボクが購入したメイドもののラノベ!?
な、何で持ってるの!?
「先日、彰様のお部屋を掃除したときに見つけてしまったのです…。その時は何も言わなかったのですが、先日、少々拝借して読んだところ、ちょっとこれエッチすぎる展開じゃないかな…って思ったんです。他にも、これなんかよく購入なされましたね…。成人コミックなんて初めて見てしまいました…」
彼女は話をしながら、だんだんと顔がさらに赤みを増していく。
また、脱水症状かなんかでしょうか…。
「さすがにあれは恥ずかしすぎですので、私ももう少し慣れてからにしてくださいね…。そ、その…セッ……」
「ああ! もう、大丈夫。それ以上言わなくていいから…」
ボクは慌てて、彼女の口をふさいだ。
休み時間は廊下の人通りも多くなってしまう。
さすがにそんな会話を聞かれてしまって退学にでもさせられたら、お終いだ。
「じゃあ、話を戻して、お昼ご飯にいたしましょうか。最近はいつも元気な子たちとともに食事を取っていましたので、たまには彰様とも食べたいと思っていたのです」
何それ、ボクは陰キャだから静かってこと?
押しが弱いってこと?
「お弁当箱が見当たらなかったので、おせちに使われるお重を使わせていただきました」
「よくそんなもの見つけたね…。てか、よくあったな、そんなもの」
「ええ、キッチンの奥の方にありましたので、しっかりと洗ってから使ってます」
彼女は手提げ袋から重箱を取り出し、蓋を開ける。
おにぎり、卵焼き、ウィンナー、から揚げ、ポテトサラダなどまるで小学生の頃の運動会のお弁当を彷彿とさせるような手作りの物だった。
彼女はボクに取り皿とお箸を渡してくれる。
「どうぞ、お好きなものからお食べください」
「あ、ありがとう」
ボクはおにぎりを食べる。ちょっぴり塩が利いていて美味しい。
卵焼きも出汁が利いていて、お母さんの味って感じだった。
「これだけの量を朝から作ったの?」
「ええ、もしかしたら、遅刻してしまうかもと思いまして、今日は制服で朝の業務にあたらせていただいていたのです」
「そうだったら、事前に言ってくれても良かったのに…」
「いえ、その…、サプライズがしたかったので…」
彗さんはウィンナーを食べながら、顔を赤らめてしまう。
何でそんなに恥ずかしがるのだろう…。
「それにしても、最近、あまり…その…当たりがきつくないね。どうかしたの?」
「なんですか、それ。私のこと相撲取りか何かだと思われてます?」
いえ、そんなこと一言も言ってません!
当たりってそういう風に思うの?
だって、リアルに言えないでしょ。
おっぱい擦りつけてこないね? とか。言ったらセクハラでしょ!?
「まあ、それは冗談で、実は少し恥ずかしい気持ちが芽生えてしまっていたというのが本音です」
「恥ずかしい?」
「はい…。先日、大掃除をしていた時に、彰様がおっしゃいましたよね。『彗さん自身が魅力的過ぎるから、そういうシチュエーションをされちゃうと、ちょっとその、男として困る』と。そういわれて、彰様にメイドとしてではなく、いち女性として見ていただけているということを認識させられてしまい、私も少し恥ずかしくなってしまいまして…」
「それで距離を取っていたんだね…」
「はい。でも、何となく過ぎ去って、問題が昇華されるより、直接お話をして
「そうなんだ…。何だかボクの方こそ気を使わせちゃったね…」
「そうやって私に対して常にお優しいところも彰様らしいと思います」
「そ、そう?」
ボクは少し嬉しくなりながら、から揚げを食べる。
味もいいし、ジューシーだなぁ…。
そこで彗さんは、ふーっとため息をついて、
「それにしても、彰様の嫌われようは群を抜いていますね」
「ああ、自分でも驚きだよ…。あそこまで嫌がられているのは正直ショックが大きいね」
「正直なところ、伴侶を探されるのは出会い系アプリか何かで探した方が早いような気がしますね…。まあ、許されないでしょうけれど…」
「ああ、絶対に許されないだろうね…。それこそ、勘当どころじゃすまない話になりそう…」
ボクはげんなりとしてしまう。
そんなタイミングでボクのスマホが鳴動する。
ボクは相手を見て、さらにげんなりとしょげてしまう。
「親父からだ…出たくないなぁ…」
「まあ、そういわれましても、出ないことには旦那様にも悪いですから…。代わりに出ましょうか?」
「あ、いや、ボクが出るよ」
ボクが出ると、親父はいつも通り若干暗い調子のトーンで話をしてきて、一方的に電話を切られた。
ボクは頭の中に「?」がいっぱい溢れる。
「どうされたのですか?」
「うーん。何だか、次の週末に実家に戻ってこいだってさ。あ~、面倒くさいなぁ…」
「どうなさったんでしょうね? まだ、それほど期間も経っていませんが…」
「きっと野暮用なんだよ…。それでも来いって言うのがウチの親父だからね」
「そうなんですね。では、私もご同行させていただいてもよろしいでしょうか?」
「構わないよ。君が良ければ…」
「私は彰様のメイドですから、いつでも一緒についてまいります」
ふふっと彼女は微笑むと、重箱から卵焼きを取って口に運ぶ。
こうやって彼女と食事を囲むようになってまだ数日だけれど、何だか一緒に食べると気分が明るくて楽しくなってしまう。
その分、こうやってボクも饒舌になってしまうんだけれどね。
はあ、週末なんて来なければいいのに…。
ボクはそう思った。
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