第3話 汚部屋のお掃除をさせていただきますわ! ご主人様♡③

 確かにボクはメイドが好きだ。

 でも、女の子に対する耐性が足りなくて、メイド喫茶にすら行ったこともない…。

 だから、こうやって小説やマンガでメイドを堪能しているというのだ…。

 とはいえ、そんなことを言ってしまうと、


『やだ! 私がいるではありませんか~? どうぞ、ご自由にお使いいただいても構わないのですよ…。私、そのためでしたら、彰様のために一肌脱がせていただきますから…。チラッ…』


 何てことになる~~~~~!!

 それだけは避けたいんだ!

 まだ、慣れてないから、正直、松島さんと話をすることはできるけれど、一緒に手を繋ぐことなんかも無理!

 それどころか、彼女の肌を触るなんて…。

 あ~~~~~、考えただけで恥ずかしい~~~~~~~!!

 ボクは顔面を両手で抑えていると、松島さんはその間に本をジャンル、作者などの順序で本棚に収納していく。


「どうしましたか、彰様?」

「あ、いや、終わったの?」

「ええ、この部屋ももう、完璧です♪」


 あれ、エロいことしてこない…。

 何か珍しい。


「じゃあ、後は以前から物置として使用していた部屋だね」

「そこは…」

「うん、今、君が使っている部屋だよ?」

「いえ、ですので、そこはちょっと…」

「え、でも、全然片付いてないから、まずは片付けてから君にもちゃんとした住環境で住んでほしいんだけれど…。あの時はドタバタしていて、急遽掃除もせずに君に部屋を使ってくれなんていったけれど、さすがにそれはまずいとボクも反省しているんだから…」

「あ、はぁ…」


 何とも歯切れの悪い返事だ。

 ボクは自室からリビングに出て、彼女の部屋のドアに手を掛ける。


「だって、以前に眠れない夜は来てくださいとも言っていたじゃないか」

「それはそうなのですが…」

「じゃあ、この部屋のボクのいらないものは捨てるね」


 そして、ドアを開けた瞬間、ボクは凍り付いた。

 部屋の壁という壁に、ボクの写真が貼り付けられてある。

 それだけではない。

 布団のシーツにもボクの写真がプリント印刷されている。

 これ、どうやって干してるの!?

 ボクが恥ずかしいんだけれど!?


「えっと…。説明してくれる…かな?」

「あ、はい…。あの…。いつでも彰様に深い愛情でお慕いできるようにと、イメージトレーニングのつもりで始めたのですが、だんだん写真の枚数が増えてまいりまして…」


 うーん。説明聞いても、耳には話半分くらいしか入ってこないや…。

 何だか、サイコパス気味にしか見えないもん…。


「えっと、今後もこうしておきたければ、ボクは別に気にしないけれど、どうする?」

「え…あの…では、このままでお願いできますでしょうか…」


 普段のセクハラ小悪魔・彗さんではなく、恥じらってモジモジとしながら言ってくる彗さんは何だか可愛かった…。

 学校で見るような清楚な彗さんに見えてしまったじゃないか…。

 うん、可愛い…。

 あれ? ボク、そんな感情で今まで女の子を見たことなんてなかったのに…。

 まあ、あんまり気にしなくてもいいか…。


「じゃあ、君の私物は触らないで、ボクのものを片付けていくね…」


 本棚から、古びた本をすべて取り出し、チェックしていく。

 大昔の子どもの頃に買ってもらった図鑑がなぜかささっていた。

 正直、詳しくて良いのだが、高校生になってまで使うものでもないし、高校生になれば文研だけでなく、様々なインターネットで調べて書くことも出来る。もしも、本が必要ならば、学校の図書館を使うのもありだ。かなりの蔵書数があることだし…。

 ボクは、図鑑をすべて彼女に手渡す。


「これ、どうしよっか…?」

「いらないのですか?」

「うん…。もう、使わないから廃品回収に出してくれてもいいよ」

「では、私に一度読ませていただけませんか? こういった本を子どもの頃に読ませてもらったことがなかったので…。もちろん、その後はフリマかなんかで売って、彰様にご活用いただける資金にいたしますね」


 うん。何だか凄くしっかりしている!

 ボク、廃品回収で良いじゃんって思ってたもん!


「じゃあ、お願いするね。子どもの頃、図鑑を買ってもらったことなかったんだ…」

「ええ、こういった最近のものは読んだことがありません。書庫に連れて行ってもらうといつも『ファーブル昆虫記』とかを読んでおりましたので…」

「すっごく本格的だね…」


 そう言って、ボクは次の書棚の本を手にする。

 パラパラと開いてみると、アルバムだった。

 ボクの生まれたときの写真から最後の方は小学生の頃だろうか…、小さな頃の自分がいる。


「これは…彰様が幼少の頃の写真ですか…?」

「うん、そうだね…」

「可愛らしいですね…」


 ボクは振り向くと、いつの間にか目の前に腰をかがめるようにしてアルバムを食い入るように見ている彗さんが横にいた。

 てか、近いし! しかも、ボクの目の前にはIカップがメイド服からこぼれんばかりに!

 てか、本当にデカッ!?


「この辺りはまだ弟も妹もいないころだね…」


 なぜか、「いない」という言葉に敏感に自分の心が反応してしまう・

 はぁ…何だか辛い…。


「これは時系列順に並んでいるんですか?」


 ボクは他の何枚かをぺらぺらとめくる。

 確かに、何の記載もないけれど、見た感じ順に並んでいるようだ。


「確かにそんな感じですね」

「じゃあ、次のページは3歳くらいですかね」


 彗さんはキャッキャッと喜んでいる。

 お願いだから、ぴょんぴょんジャンプしないで…。

 Iカップがたゆんたゆんとボクの視界をおっぱいで埋め尽くされてるから…。

 もう、こうなったらワザとというよりも天然なのかとすら思えてくる。


「わぁ~、3歳の彰様もお可愛いですね。あ、これなんか、泥遊びをされてたんですね」

「そうみたいだね…。ウチはどんどん外で遊んでいたから、命の危険さえなければ、裏山にも登っていいと言われていたくらいだからね」

「かなり自由奔放なご方針だったのですね」

「次が5歳くらいかな…」


 ページをめくると、そこには友だちと遊んでいるらしい写真が出てくる。

 みんなで虫を追いかけたり、池の魚を棒で突っついたり、と見ていると悪さばかりが目立つ写真だ。

 親もよくも注意せずに写真撮ってるんだな…。

 彗さんの言葉を借りるなら、ウチの家族は本当に自由奔放なのかもしれない。

 その中のひとつの写真に目が行く。

 その写真は、女の子と「ままごと遊び」をしていた。

 ボクにしては本当に珍しく女の子と遊んでいる。

 その子は最高の笑顔で、ボクにお箸で何かを食べさせようとしていた。

 ボクは照れながら、口を「あ~ん」と開けていた。


「これ見て! ボクも女の子と遊んでいたんだね」

「………………」


 ボクが彗さんの話しかけると、彼女は無言でその写真をじっと眺めていた。

 先ほどまでのはしゃいでいた感じが全くなく、ただ、その写真を禍々しいものでも見るように少し睨みつけていた。


「この写真がどうかしたの…?」

「あ、いえ…。その彰様が女の方と遊ばれていたこともおありだったということに少々驚いておりました…。それも『ままごと遊び』なんて…。私がさせていただきたいくらいです!」


 むーっ! と怒りながら、両腕でおっぱいを寄せるのは止めてください。

 メイド服から飛び出してきそうで、理性が飛びそうですから…。

 でも、そのあとも彗さんはその写真に対して動揺が明らかに見て取れたような気がした。

 そのあとも、いくつかの写真を見てみたけれど、その時の彗さんの様子は明らかに普通であった。

 というより、小悪魔度合いが度を越していた。

 ボクの可愛い写真を見つけると、横から抱き着いて着たり、アルバムを渡すとそれを谷間に挟むなど、ボクに対する精神攻撃はずっと続いた。


「この棚はアルバムばかりだったね…。これもボクの物だから、ボクの部屋に移動させておくよ」

「別にこの部屋でもよろしいんですよ?」

「いや、この部屋に置いておくと何だか嫌な予感がするから、ボクが保管することにするよ」

「あ、私のことを信用されていませんね? 何だか残念です」


 寂しそうに返答する彗さん。

 いや、今この部屋の壁の現状を見て、そう判断できる君って何だか凄いね!?

 そのうち、アルバムごと私物化されそうなので、鍵のかかる場所にあずかることにした。

 他にも箪笥の中やクローゼットの中など、色々と置いてあった訳の分からないものを不燃物のごみ袋に詰め込んでいく。


「これで完了かな…」

「そのようですね…」

「ボクの部屋にもクローゼットはあるから、この部屋のクローゼットは彗さんが自由に使ってくれていいよ」

「よろしいのですか?」

「うん。だってボクはそんなに服を持ち合わせていないからね」

「そういう私も、制服とこのメイド服とあと数種類だけ私服を持っているだけです」

「そうなんだ。まあ、ボクの部屋よりも少し小さいけれど、あとは水拭きをすれば、綺麗になるだろうから、これから、ここは君の部屋ってことでいいね?」

「ありがとうございます。その分、しっかりと働かせていただきますね!」


 といいながら、指をぺろりと舐める彗さん。

 もう、何やってもエロくしか見えない…。

 ついに精神攻撃でボクのHPもゼロになってしまったのかな…。

 彼女はテキパキと床や窓枠などを水拭きしていく。

 部屋は見違えるようにきれいになる。

 さらにボクの部屋やリビングも拭いてくれる。

 お願いもしていないのに次々と仕事を終えていくので、ボクは何だか申し訳なくなってしまう。


「じゃあ、ボクはこのゴミをゴミ庫に出してくるよ」

「あ、私も一緒に参ります」

「え、その格好で大丈夫なの?」

「この時間帯はそれほど多くの方もいらっしゃいませんよ。だから大丈夫です。それに、ちゃんとスカートの裾は長くしておきますから」


 出来るんだったら普段から長めでお願いできませんか!?

 正直、太ももがぷりんぷりんでボクの理性をゴリゴリに削られるんですけれど!

 部屋から出た不燃物の袋を次々と共同のゴミ庫に出しておく。

 部屋に戻ると、お昼をゆうに過ぎていた。


「お腹減ったね? 今日のお昼ご飯は簡単にファーストフードか何かにする?」

「構わないのですか?」

「構わないよ。だって、こんなに大掃除を一緒にやってくれたから、臨時ボーナスだと思ってくれればいいよ」

「ありがとうございます!」

「じゃあ、買いに行く?」

「いえ、あのぉ…。その前に私たち、かなり埃をかぶったり、汗もかいたりしたので、お風呂に入ったほうがよろしいのではないでしょうか…」

「そっか、それもそうだね」

「では、用意してまいりますので、リビングでお待ちくださいね。あ、冷たい麦茶をお入れします」


 ウチのメイドは何から何まで気が利く子だ…。

 それに単なる小悪魔のようにずっと見ていたけれど、それだけじゃない人間味みたいなものが見れたような気がした。

 ボクは彼女の入れてくれた冷たい麦茶を飲みながら、彼女の後ろ姿をそっと眺めた。



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作品をお読みいただきありがとうございます!

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