第4話 お風呂でのお世話をさせてくださいませ! ご主人様♡①

 ボクの家にはメイドがいる――。

 一見、御曹司ならば当然じゃね? と思う人も多いかもしれない。

 確かに、実家に帰ればそこには使用人がたくさんいる。

 食事や掃除、身の回りのことは何でもしてくれる使用人たちがあちらこちらにいる。

 ボクらは自分たちのやらなければならないことを集中して、取り組むことが重要な仕事であって、それ以外はすべてを使用人たちに任せる。

 ボクらの世界では、それが当たり前のやり方だと思っていた。

 でも、ボクは、その考えから一度抜け出してみたかった。

 ボクにとって、外の世界というものはどういうものなのか…。

 親父の名前…いわば地位や権力を借りずに、極力自分の力で生活したいと思った。

 だから、ボクはマンションでの一人暮らしを選ぶことにして、学校も選ぶことにした。

 そもそもボクは親父から「社交性の持った男らしい人間」になれということで、一人暮らしを始めることとなった。

 現在通っている国芸館高等学校も自分で選んで、受験してその御曹司やお嬢様の中に飛び込んだ。

 までは良いんだけれど、実際、学校ではそんな社交性が出来ているわけもなく、元からの陰キャ本能に基づき、社交性なんて皆無のボクに相手に話しかけるなんて正直ムリゲーにもほどがある。

しかも、だ―――。

 先日、突然やってきた親父から「永遠の伴侶」を見つけろとか言う魔界級な難易度の指令まで出していきやがった…。

 だから、ボクにはそもそも彼女どころか女の子の友だちすらいないんだって!

 いるのは、激ヤバメイドが一人…。

 しかも、このメイドが色々と訳ありなメイドだったりする。

 まず、同級生で、ホームレスだった。

 この時点でかなり闇が深そうな感じしかしない…。

 それと、一番の問題がとにかく、エロい。

 彼女が着ているメイド服は落ち着いたメイド服のはずなんだが、わざわざ裾を20センチも短くしているせいで、太ももがムッチリとボクの目に焼き付けてくる。

 しかも、その太ももには日によって違うものの、網タイツやニーハイなどエロさを際立たせるような(個人談)オプションを付けてくる。

 それだけでも十分にマズいのに、さらに上を見上げると精神破壊級のIカップのおっぱいがメイド服から零れ落ちそうな感じになっている。

 うう…。

 ボクだって男なんだ!

 理性が吹き飛べば、欲情だってしてしまいそうだ…。

 しかし、このメイドはそんなことお構いなしで、


「私はどんな辱めも受け入れる覚悟を持っています。どうぞ、彰様のご自由に」


 なんて、言ってくるんだ…。

 でも、メイドの経験もあるようで、仕事も問題なく早い。

 ただ、毎日ボクの精神をゴリゴリと削ってくるエロさだけは何とかしてほしいものなんだけれど…。

 そんな二人の同棲生活が始まって2週間ほど経ち、休日を利用して、部屋の大掃除をした。

 これには少しわけもあって…。

 彼女に今貸し与えている部屋は、ボクが一人暮らしを始めたときに物置として使っていた部屋だ。

 全然片付けずに彼女はそのまま使用していた。

 だから、その部屋を綺麗にして、労働者の住環境も良くしてあげなければならない。

 いつ何時もブラック企業であってはならないという親父の口癖だ。

 ボクらの部屋は見違えるほど綺麗になり、住環境は最適化された。

 ただ、昼食をファーストフード店にすることになったボクらは汗とかぶった埃を落とすためにお風呂に入ることになった。


「彰様、お風呂の準備が出来ましたよ~?」

「あ、ありがとう……」


 ボクの返事はとても歯切れの悪いものだった。

 いや、そりゃ歯切れも悪くなるだろう…。


「あのぉ…」

「はい?」

「彗さんはどうして身体にタオルだけを巻き付けた状態なのでしょうか?」

「外しておいたほうが良かったですか?」


 ペロンと剥がす。

 たわわな果実とか何か下の方とかヤバいものまで丸見えだ。


「タオルを脱げと言ったわけじゃありません!」

「そうだったのですね…」


 と、言いながら、タオルを再び巻き付ける。

 いや、またエロイな…。

 タオルを付けても分かる彗さんのIカップのお胸、ムッチリとした足…。

 ああ、理性を保つんだ、ボク!


「あのぉ…。お風呂が出来ましたよ」

「うん、わかった…。て、ボクの質問に答えて欲しいんだけれど…」

「あ、どうして私がタオル姿なのかということですよね?」


 ちゃんと聞いてるじゃん!

 わざわざ間違った方向でボクを修正していかないで欲しい。


「彰様のお背中をお流ししようかと思いまして」


 ありがたいんだけれど、ちょっと恥じらいながら言うのは止めて…。

 ボクの方がもっと恥ずかしくなってきちゃうから…。


「いや、さすがに一緒に入るのはマズくない!?」

「えっと…。それはどうしてでしょうか?」

「いや、だって、彗さんとボクとは同級生なんだから…」

「どうして同級生だと問題なのでしょうか…。そもそも私はメイドです。彰様が今後、歳を重ねられるときっと彰様よりも若いメイドが背中を流すためにお風呂にご一緒されることもあると思うのです」

「まあ、そうなんだけど…」

「そうなったときに、お断りになられるということですか?」


 う…。さっきの恥じらいはどこに行ったんだよ…というくらいキッと強い目つきでボクに言ってくる。

 いや、まあ、そう言われちゃうとそうなんだけどね…。

 そう。

 彼女は本来のメイドの仕事もしっかりとやってくれているんだけれど、やってきたときからそのエロさを十分発揮していて、親父から伴侶を見つけることを宣言されてから、女性に対する耐性をつけるということを言われて以来、エロさをさらに爆発させている次第だ。


「何もいたしません…」


 いや、存在がエッチです。

 それは否めません。


「お背中をお流しするだけですから…。昼食がどんどん遅くなってしまいますよ」


 それはさすがにいやだ…。

 そろそろお腹も鳴ってしまいそうなくらい減ってきている。

 

「分かったよ…。できれば一人で入りたいけれどね…」

「初めてだからそういう気持ちになられるんですよ…。慣れると当たり前のように入れますよ」


 いや、それってどうなの?

 クソエロ親父ならば、いざ知らず確かにボクはそんな経験はないし…。

 はぁ…。

 そりゃ、ため息もつきたくなる。

 ボクは脱衣所で観念したように服を脱ぎ始めた。

 彼女も悪気があってやろうとしているわけではないのも分かっている。

 単にボクの女性に対する耐性を何とかしてくれようとしているのだと思っている。

 ボクがパンツを脱いだ瞬間。


「もう、脱がれましたか?」

「勝手に開けちゃダメ!」

「あらら…。ごめんなさい…。では、ご準備が出来ましたら、お呼びくださいね」

「あ、ああ…」


 ボクは急いで服を脱ぎ、その場にあったタオルで前を隠す。


「す、彗さん、脱いだよ…」


 何だか、悪いことでもするのかのような罪悪感が芽生える。

 別にボクが彼女に手を出すわけでもないのに…。

 ボクと彗さんはそれほど大きくない浴室に入り、彗さんはボディソープをスポンジに取り、泡立てる。


「では、洗いますね」


 ボクは無言でコクリと頷く。

 優しい手つきで、彼女はボクの身体を洗ってくれる。

 ああ…、でも何だか卑猥な印象がぬぐえないよ…。

 その、何ていうかいかがわしいお店でそういうのがあるって聞いたことがあるんだよね…。

 しかも、その…一緒に入っている相手が同級生の学園でも清楚で有名なあの松島さん…。


「どうかされたのですか?」


 ボクを後ろから覗き込むように見つめてくる彗さん。

 ボクの鼓動はさらに激しくなってしまう。

 ふんわりとした唇。湯気のせいでしっとりとした白い肌。


「い、いや…、凄く優しく洗ってくれてるんだね」

「もちろんです。彰様にとって最高のお風呂でなければなりませんから…」


 うん。今のシチュエーションが実は最高かもしれない…。

 て、あれ?

 ボク、何だか心に余裕が出来てきたのかな…。

 彗さんの肌が見えていて、ドキドキは相変わらずしているんだけれど、ちょっとだけ彗さんを見る余裕が出来てきたような気がする。


「何だか、ボクのためにありがとう…」

「いえいえ、これが私の仕事なんですから」


 笑顔でそう言ってくれる彗さん。

 そこにはいつものエロさはないけれど、いつも以上に女性というものをボクは意識してしまう。



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