第3話 汚部屋のお掃除をさせていただきますわ! ご主人様♡②
数分経ってから彼女はボクの部屋から出て来ると晩御飯の準備をし始めた。
これまで実家暮らしだったころは、台所にボクらが入ることは禁止されていて、食事の準備を見たことはなかった。
でも、ウチのマンションは対面式キッチンのため、作っている様子がダイレクトに見ることが出来る。
「彗さん、今日の夕食は何?」
「今日は少し寒かったので、クリームシチューにしようかと思っています」
「へぇ~クリームシチューかぁ…」
目の前では、並べられた具材を丁寧に洗い、皮むきをしてから、適当なサイズに切りそろえられていく。
これまでもそうだったが、彼女は本当に手先が器用だと感じる。
ボクは彼女の料理している姿を遠目で見ながら、読書に
「彰様は宿題はされないのですか?」
彗さんがボクの方に少し視線を上げ、訊いてきた。
ボクは読書に没頭しつつ、
「食事後に君と一緒にしようかと思ってね」
「なぜ、私と一緒なのでしょうか?」
「ボクは女性と一緒に課題をやったことがないんだよ…。図書館デートなんかも一切ね。もしも、君が嫌ならボクは今からでも宿題はするよ…。これも自分への試練だと思ってるんだ」
彼女はボクの方をぼんやりと見ている。
そんな彼女がニコリと優しく微笑み、
「構いませんよ。彰様がご希望であれば、勉強をご一緒させていただきます」
「ホントに? ありがとう」
「いえ…こちらこそ……(ボソボソ)」
「ん? 何か言った?」
「あ、いえ、何もございません。では、少し急ぎ目に夕食をつくりますね」
「ああ、ありがとう」
彼女はその言葉通り、手際よく夕食を完成させた。
食事をお盆に乗せ、リビングのローテーブルに運んでくる。
「お待たせいたしました。どうぞ、お食べください」
と、食事を置いてくれるのはいいんだけれど、ローテーブルに置くときはいつも、彼女のIカップのお胸がボクの目の前に迫ってくる。
もう、完全に狙ってやってるんだと確信できるレベルで。
だって、彼女に恥じらいがなさすぎる!
「あ、君の分も持ってきて」
「それはどうしてでしょうか?」
「一緒に課題をするんだから、先に君も食べようよ」
「さすがにそれは…」
本来、使用人は毒見のために先に食べるか、後の休憩で食べることが多い。
主人と一緒に食べることそのものがご法度というわけではないが、そういうお願いをするものがいないので、それが当たり前だと彼女も思っていた。
「これからはさ、ボクと一緒に食べてよ…。折角、同じ一つ屋根の下に住んでいる…しかも同級生なのに、別々に食べるのって何かおかしいような気がしてきてさ…。だから、これからは家で食事を取るときは一緒に食べてくれないか? これも、そうして欲しいんだけど…。無理かな…?」
「もちろん、不可能ではありません。ご命令とあれば…」
「うーん。命令っていうか…。正直言うと、一人で食べるのが寂しいんだよ。一緒に食べながら、会話が出来た方が良いと思うし、だから、ボクの心の中にある本音っていうのかな…、これは」
「分かりました…。では、彰様のお言葉に甘えさせていただくことにします」
でも、この数分後にボクは後悔をすることになる。
「こ、このシチュー、美味しいね…。具材の美味さも良く引き立ってるね」
「そう言っていただけると、嬉しい限りでございます」
いや、ゴメン、今の僕は本当はシチューの味がわかっちゃいない。
だって、目の前のローテーブルに彼女のIカップのお胸がムンズ! と乗ったままなのだから…。
ぽよよん! ふよよん!と彼女が食べるたびに揺れている。
ああ、視線を背けないといけないけれど、食事中にそんなことできるはずもない…。
「彰様、スプーンが止まってますわ…。食べさせて差し上げましょうか? ほら、あ~~~ん♡」
いや、そこエロっぽく言わないで!
ボクは仕方なく、彼女の差し出したスプーンでシチューを頂く。
「もう一杯いかがですか?」
と、言いながら、もう一杯すくってくれる。
さすがに「いらない」とも言えずにそのまま促されるように口に運ぶ。
「彰様と、間接キスしちゃいましたね♡」
ホント、こいつ、小悪魔かよ!
彼女はボクの口からスプーンを引くと再度クリームシチューを一掬いして、自分の口に運ぶ。
そして、これ見よがしに「美味しい…」と囁いたのであった。
あ~、理性を維持するのにこの子は本当に悪すぎる!
「そういえば、明日と明後日、休みだけれど、何かしようと思ってることはあるの?」
「そうですねぇ…」
と彼女は部屋をぐるりと見渡す。
そして、ボクの方を見直して、
「すべてのお部屋のお掃除をしたいですね…。少々、物が溢れているように感じますので…」
「そっか…部屋の掃除か…。まあ、確かに去年から一年間住んで、捨てたごみってそんなにないかも…」
「それはいけませんね。断捨離を進めないとお部屋がせまいと心も狭くなってしまいますよ」
え。ボクってそんなに心の狭い人間だと思われている?
「じゃあ、明日は大掃除だね」
「はい。大掃除いたしましょう」
彼女はニコリと微笑むと、そのまま夕食の続きを頂くのであった。
翌日、少し寝不足であった。
ただ、いつもの起こされ方をされると嫌なので、早めに自分から起きて服を着替える。
そして、そのままリビングに行くと、すでに彗さんは朝食の準備をしてくれていた。
「あら…彰様、今日はお早いんですね」
「うん。いつも起こされてばかりだと何だか悪い気がしてね…。今日は自分から起きてきちゃった」
「そうですか…」
あれれ…、彼女はすごく浮かない顔をする。
何かまずいことでもしたのかな…。
「いつも起こしに行くと彰様が恥ずかしそうにされるのを見るのが日課となっていたのですが、今日は行けなくてちょっと残念です」
ええ!? この人、変態!?
どうして、ボクの恥ずかしがっている姿なんか見て喜ぶんだろう…。
「もう一回寝た方が良い?」
「あ、いえ結構です。もう一度寝られるのであれば、私が添い寝させていただきますので、おっしゃってくださいね?」
「何の脈絡もなく、さらっと恐ろしい提案をねじ込んでくるのはやめてね…。ボクは、まだ女性に対してよく分からないことも多いから、出来れば健全なお付き合いの方から始めたいと思っているからね…。だから、そういった伴侶となるべき方を迎え入れるときには、できればお互いがピュアな気持ちでいたいと思うんだ」
「かしこまりました…。では、ピュアマインドから燃え盛る愛に繋がるような形で応援させていただきます」
うん。絶対に話聞いてないでしょ?
ボクは「あはは…」と苦笑いをしながら、用意してくれた朝食を口に運んだ。
食事を終えると、早速、換気のために窓を開け放ち、作業に取り掛かる。
まずはいらないものをゴミとして出しやすいようにリビングに集めたいので、そのための空き場所を作る目的で、リビングの端に置かれた荷物類を必要、不必要として分けていく。
これらに関しては、さすがに使っている場所ということもあって、それほどの大荷物になるものもなく、淡々と片づけが進んでいく。
「じゃあ、次に彰様のお部屋ですね」
「うん、案外、リビングが早く終わって助かったね」
「はい…。良い感じのペースです」
彼女はファイトっと拳を胸の前で上下に振ってくれたが、その腕に挟まれたIカップが応援による士気の高まりよりも、ボクの理性をゴリゴリと削っていく。
ボクは自分の部屋に入る。
とはいうものの、ボクの部屋も生活感が溢れた場所なので、それほどゴミというべきものはない。
そもそも読み終わった本が机に積み重ねられていたりするくらいだ。
て、読み終わった本——!?
さすがに彼女にそれを堂々を見せるのは問題が……。
「彰様…」
「な、何でしょうか…」
ボクは非常にマズい状況に置かれてしまったような気がする。
明らかにバッドエンドでしょ…、これ。
彼女にここで性癖を知られたら、今後の自分の身が危うい…。
「彰様って、メイド物がお好きなんですね…」
ぐはぁっ! やっぱり来た!
ボクはその場にうずくまってしまう。
彼女は嬉々として、それらの散らかった本を手に取り、表紙と挿絵を見て、本棚に整頓していく。
表紙を見るのは良いけど、挿絵までチェックするのは止めて…。
すっごく恥ずかしから…。
「これはある意味、私に対してこうしてほしいという願望でいらっしゃいますか?」
「断じて違う!」
「じゃあ、なぜこのような本を?」
「い、いや…あの…」
ボクは答えられなくなってしまう。
―――――――――――――――――――――――――――――
作品をお読みいただきありがとうございます!
少しでもいいな、続きが読みたいな、と思っていただけたなら、ブクマよろしくお願いいたします。
評価もお待ちしております。
コメントやレビューを書いていただくと作者、泣いて喜びます!
―――――――――――――――――――――――――――――
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます