第3話 汚部屋のお掃除をさせていただきますわ! ご主人様♡①

 学校でのボクは陰キャの代表格といった感じで、女子との会話はほぼない。

 業務連絡的な部分ではあるけれども、それ以上はない。

 以前に一度、告白をしたことはあったが、その時も「何だかちょっとごめんなさい」というもはや理由にすらなっていない理由で振られた。

 今思い出すと何だかやりきれない感じがしてならない…。

 ちらりと前の方を見ると、松島さんの周りには人だかりができている。

 やはり彼女は人気者だ。

 男女問わず、あの清楚な雰囲気は誰もがほっと心を和まされてしまうし、成績も優秀で付け入る隙すらない。

 今日も今日とて、彼女の周りには女の子たちが喚いている。(個人の感想)

 松島さんはみんなの話を一つ一つ大事そうに聞き、それに対してわざわざ一つ一つに返事をしている。

 いや、そんなことしてたら、どれだけ休憩があっても足りないだろうが…。

 ボクがそう思ったタイミングで予鈴が鳴る。


「じゃあ、今日の昼休みは一緒にご飯食べようね!」

「ええ、今日はご一緒させていただきます」

「ええ!? 本当に! ありがと~」


 そんなに喜ぶことなんだろうか…。

 確かに彼女は清楚という言葉を具現化したような女性だった。

 立ち居振る舞いはクラスの女子の中でもダントツにお淑やかで話し方や作法もしっかりとしたお嬢様であった。

 これだけのお嬢様であるならば、きっとどこか高貴な家のお嬢様に違いないと思う。

 しかし、彼女のことは何も分からない。

 それを詮索する子も誰もいない。

 そりゃそうだ。

 ここはそう言った子たちが集まる学校なんだから。

 自分たちの家のことを話すなんてご法度だ。

 だからこそ、彼女に対して誰も深く入り込むこともないし、彼女もそこをわきまえて、さらけ出そうともしない。

 その距離感があるこの学校がボクは好きだ。

 と、いっても、親父から言われた伴侶探しとやらは本当に骨の折れることだと思う。

 そもそも女性とのお付き合いなど一切ない。

 運動会などで手を繋ぐくらいでボクの方からエスコートをしてあげるなんてこともない。

 人生で唯一の告白も、「何か、上手く言えないんだけれど、ごめんなさい」ってそれ理由になってないから!

 そんなボクが果たして6か月という短い期間で、本当に恋人…というより永遠を誓うべき人なんかを見つけられるのだろうか…。

 ボクは深いため息をしてしまう。

 それにボクには女性に対する耐性も備わっていない。

 ボクは肘をつきながら、ボーッと松島さんのほうを眺める。

 アイツって普段、何を考えて生きてるんだろう…。

 まあ、そもそもアイツがどんな家の人間かは知らないけれど、ホームレスだったことからいえることは、それほどまともな身分ではないであろうということ。

 それをしっかりと訓練したのか、練習したのか、お嬢様軍団と同等に渡り合えているのが凄い。

 それだけでも、彼女に対しては敬服に値するよ。


「こら、藤井寺! お前、何、よそ見してるんだ!」

「え? あっ!? 申し訳ありません!」

「まったく、お前の周りには女の姿がないから、安心してたが、段々と色気づいてきたか!?」


 うえ。先生、その言葉はボクに痛恨の一撃です。ぐふっ…。

 周囲の生徒たちがボクのことを嘲笑う。

 うう…。

 松島さんもボクの方を見てるよ…。

 しかし、そんな清楚な彼女は帰宅(ボクの家だけど!)すると、


「お帰りなさいませ、彰様…」


 深々とお辞儀をする松島さん。

彼女は学校の清楚な感じとは裏腹に、ボクの家では、まばゆいばかりのミニスカに、ふりふりした感じの服装の純粋可憐なメイドさんになるのである…。


「あ、あのぉ…」

「何でしょうか?」

「さらっと、ボクに胸を見せつけるの止めませんか…?」


 訂正。とんだエロメイドでした。


「彰様が女性に慣れていただくために、私がわけです」

「君、一肌を脱ぐの意味わかっててやってるでしょ?」

「うふふ。それは彰様の中でご自由にお受け止め下さいませ」


 そう。彼女の仕事はひょんなことから、ボクのメイドになったのである…。

 ボクがある日、彼女を公園で見つけたあの日から———。




 洗濯物を畳んでいる彼女のもとに服を着替えたボクは出くわした。

 正座もすごく綺麗な姿勢だ。

 きっと着物なんかも似合いそうだ。

 て、何を勝手に想像してるんだ、ボクは…。


「あら、彰様、お着替えが終わられたのでした、今日着られていたシャツなどを洗いますので…」

「あ、ゴメン、勝手に脱衣所のカゴに入れてきちゃった…」

「そこまでされなくても結構ですのに…」

「いや、まあ、これまでも一人で色々とやってきたから、急に彗さんにすべてを任せるといっても、身体が自然に動いてしまってなかなか任せられないよ…」

「そうおっしゃらずに、今度からはお任せください。私もお給金を頂戴している立場ですので、そもそもお仕事をしなければ、またホームレスに逆戻りになってしまいますので…」

「そんなことはさせないよ!」


 ボクは急に語気を強めてしまう。

 彼女は「え…」と口を半開きのまま少し固まってしまう。

 ボクは「しまった…」という表情をしてしまい、そのまま視線を逸らす。


「い、いや、君があの公園に戻ってしまうと、また、強盗に遭うかもしれないし、最悪の場合、そ、その…君の………」

「ご心配、ありがとうございます…。彰様はお優しいのですね…。ホームレスであった私に、このような温かい家、そして温かい食事までいだだき、職もいただけるなんて…」

「いや、ボクはそんな君の思うほど良い男じゃないよ…」

「いいえ、この数日だけご一緒していても凄く感じます。彰様は本当に心優しい方ですね…。あとは、女性の扱い方に慣れていただくだけですわ。その辺について、私もにご協力させていただきますから、ご安心ください」


 と、言ってIカップの谷間をチラチラ見せないで!?

 君は正座したまんまなんだから、寄せるだけでタユンタユンがボクの視界に飛び込んできちゃう!


「まあ、そっちも克服できるように頑張るよ…。そうでないと、6か月後にはボクも君も露頭に彷徨うことになるからね…」

「そこに私も含めていただけるの、大変光栄です。それに…」


 彼女は畳んだ服をもって立ち上がり、


「このようなことを申し上げるのは不躾かと思ったりもしたのですが…。彰様のご兄弟はきっと生きておられると思います。まあ、理由わけがあるのでもなく、単に私の直感なんですけれどね…。すみません、気休めにもなりませんね…」


 そう言って、ボクの部屋に畳んだ服を持っていく。

 ボクは振り返り、彼女の手を引く。

 瞬間に、畳んだボクの服は再び、床に落ちる。


「あ、ありがとう…。君こそ、本当にやさしいんだね…」

「……………」


 突然のことだったからか、彼女はボクと繋がった手を見て、無言になってしまった。

 ボクは「あ…」と気づいて、慌てて手を離す。

 彼女はそっと顔を背けて、落ちたボクの服を拾い直す。


「ありがとうございます。勿体ないお言葉です…」


 それだけ言うと、彼女はボクの部屋にそっと入っていった。

 何か、ボク、マズいことでも言ったのかな…。

 ボクはそのあと自己嫌悪に陥った。


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作品をお読みいただきありがとうございます!

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