第2話 突然の旦那様からのご指令ですね! ご主人様♡③

 親父はその後、いくつかの報告事項と雑談をしたうえで、帰っていった。

 ボクは見送った後、自室に戻る。

 そこには少し悲しそうな瞳をした彗さんの姿があった。


「彗さん…」

「彰様…」


 彼女がボクの方に向かって倒れ掛かるように歩み寄ってくる。

 ボクはそれを受け止め…、


「旦那様って凄くエロ親父ですね…。さすが、彰様のお父様ですね。血は引き継がれるってことですね」


 倒れ掛かるように見せかけて、ボクの耳元でこの悪魔は囁いてきた。

 いつボクがそんなにエロいことを君にした!?

 ムニュ………

 ぬぉおっ!? こ、この柔らかさは…。


「旦那様にはお触り厳禁ですけれど、彰様でしたら私の身体はお触り自由となっておりますので、女性に対する耐性をつけるためにもどうぞ、いつでもお触りくださいね」


 小悪魔はボクにそう言って、ニヤニヤと意地悪く微笑む。

 ボクの心臓は理性を奪い取られそうに緊張して、早鐘を打っている。


「それよりも、彰様。玄関のドアを閉めたほうがよろしいのではありませんか? この姿を住民の方に見られたら、半年が経過する前に退学処分になるかと思いますよ」

「うわぁぁぁぁぁあぁ!?!?」


 ボクは急いでドアを閉める。

 そのまま、気が抜けたように大きくため息をつき、そのまま腰を下ろしてしまう。


「大丈夫ですか、彰様…」

「やっぱり親父は苦手だな…。ああやって喋れるようにはなったけれど、これまでは怖いものは親父だったからね…。それに…」


 ボクは少し俯く。

 ゆっくりと目を閉じると、そこには弟と妹の笑顔が浮かび上がってくる。




「お兄ちゃん! お兄ちゃん! これ、見てみて! お庭のシロツメ草で王冠を作ってみたの! お兄ちゃんにあげるね!」


 ツインテールに髪を結った妹・彩香さいかがボクの方に駆け寄り、その王冠をボクの頭にそっと載せてくれる。


「すごく綺麗に作ったなぁ…。唯は手先が器用なんだな…。将来はそういう小さなものを作ったり、研究したりする仕事ができるかもね」

「うん! お兄ちゃんみたいに一杯勉強して頑張るね!」


 彩香の笑顔は確かに家族にとって最高の物だった。

 使用人たちの方に彩香は走っていく。

さっきボクが褒めた花の冠を見せに回っている。

使用人たちをも彼女は笑顔で包み、楽しい空気を作り出す能力のようなものがあった。

 ボクが振り返ると、そこには爪を噛む根暗な少年がいた。

 彼がボクの弟、慶太けいたがいた。

 万年寝不足のようなクマを目の下に作り、何も言わずにこちらを眺め、爪を噛んでいる。


「どうしたんだい? 今日も一人なのか?」

「俺にとっては一人の方が居心地がいいんだ…」

「そうか…。まあ、それも別にいいと思う」


 慶太はボクの顔を「えっ」と少し驚くような表情で見てくる。

 慶太はボクと後継者争いをする立場にあって、色々とボクに対する嫌がらせは仕掛けてくる。

 けれども、全く話せない子じゃないし、ボクはどちらかといえば積極的に話しかけていくほうだった。

 嫌そうな顔はするが、お互いライバルのように育てられて、本音をぶつけ合えるのは進むくらいだった。


「こんなのでいいのか?」

「別にいいんじゃないか? それを慶太が望むなら、別に問題ないだろ…。それにこれから大人になっていくにつれて、また、それが正解だったか間違いだったかを気づくことになるから、その時に治していけばいい…。それでいいと思う」


 ボクは弟の慶太に対して、別にライバルを蹴落とすつもりなど毛頭なかった。

 そもそも時折、慶太の方が頭の切れが目立つときもある。

 真面目にやらせれば、弟の方がボクよりも実力が上なのは本人は気づいてないようだが、ボクには何となくそんな気がしていた。

 ボクはそのあと、国芸館高校に入学したので、たまに実家に帰るときに話をするくらいで、それ以上話をすることはなかった。




 ボクは思い出にふけっていた。

 そろそろ現実に戻って、今後のことを考えなきゃ…。

 ボクが目を開くと、そこには至近距離でキスできるような近さに顔を近づけている彗さん。

 

「な、何をしてるんですか!?」

「え、いや…。急に眼を閉じられたので、さっきの雰囲気からキスでもしたいのかと思いまして…」

「いえ、そのようなことは全く考えておりません!」

「そうですか…。先ほどの話の後でしたので、少し励ましが必要かと思い、余計なことをいたしました」


 いや、まだ、未遂なので、やってはないんだけれど…。

 さっきの感傷もどこかに吹き飛んでしまった…。

 それにしても、警察に任せてあると言っても、血のつながっている兄弟がいなくなったとなるとやはり心配でならない。

 ボクは不安な気持ちで表情が陰ってしまう。


「ボクにとって大切な兄弟だからね…」

「心中お察しいたします…。落ち着く意味でも何か温かい飲み物を飲まれますか?」

「そうだね…。何だか疲れたから甘いものが欲しいかな…。ココアなんてウチにあったっけ?」

「安物ですけれども、購入はしてあります。お菓子作りにも使えるかと思いまして…」

「じゃあ、それを二つ、入れてくれないか?」

「お一人で飲まれるのですか?」

「いや…、君と一緒に飲みたいと急に思ったからね…」


 ボクの不意な申し出にやや困った表情をする彗さん。

 でも、すぐに表情を整えて、


「かしこまりました。では、リビングにお持ちしますので、彰様はお待ちになっていてください」

「ありがとう」


 と、ボクの前を無駄にお尻を振り振りしながら、キッチンに行く小悪魔がそこにはいた。

 し、下着が見えてしまった…。




 リビングのローテーブルにココアの入ったマグカップが二つ置かれる。

 もちろん、置くタイミングでIカップのお胸をチラリと見せるのは怠らずやろうとする小悪魔な彗さん。

 ボクは顔を赤くして、視線を逸らす。

 だから、その瞬間にニヤリと微笑むの止めて…。


「君も座っていいよ…。さすがに親父が来たら少しは気疲れしちゃったでしょ?」

「そんなことございません…と言いたいところではありますが、まあ、さすがに電話以上に緊張は致しますね」


 少しほっとした表情を見せる彼女。

 ボクはマグカップのホットココアをすする。

 うん、甘くて美味しい。

 疲れた体に染み渡るように温かさと甘さが広がる。


「もう春なのに、今日は何だか、肌寒いですからね…。何でしたら、このあと、私と一緒にベッドで暖まりますか?」


 そのタイミングでそっとスカートの裾の中を見せようとするんじゃありません。

 ああ、君のガーターベルトがエロい…。


「いや、暖をとるのはいいよ。上に何か羽織れば温かくなるだろうから…」

「そうですか…。残念です」


 え、残念なの!?

 ボクは突っ込むのを我慢しつつ、ココアをまたすする。


「それにしても、旦那様からすごい大変な指令を頂戴されましたね」

「ああ、半年以内に伴侶を見つけろだなんて、かなり難しい話だよ…」

「どうしてですか?」

「親父のことだから、国芸館レベルの女性でないと絶対に結婚の許しは出ないと思う。そもそも後継ぎなんだから、遺産も含めて共有財産として手に入れてしまうからね…。さすがにどこの馬の骨かもわからない教養のない子を息子と結婚させるなんて言うギャンブルはないだろうね…」

「まあ、それは理解できます…」

「それと…これが一番の問題なんだけれど…」

「はい…」

「ボクはこれまで一度たりとも女性とお付き合いをしたことがない!」

「……………え?」


 いや、そこで本気で間の抜けた返事を返してくるのは止めてくれないかな…。

 結構、ボクはボクでショックを受けるんだから…。


「それで女性に対する耐性がなかったわけですね」

「まあね…」

「では、ご安心ください! 私が彰様に女性の耐性を身に着けていただけるように一肌脱がせていただきますね!」


 といいつつ、さっきのスカートの裾をさらに引き、もはや下着が見えそうなくらい太ももが露わとなる。

 うわっ!?

 ボクは視線を逸らすと、ニヤつく彼女。

 その表情を見た後にチラリと太ももに目が行ってしまう。

 ああ、悲しい男のさが……。


「んふふ…。よろしいのですよ。彰様の女性に対する耐性を身に着けるには、手っ取り早くするためには理性を吹き飛ばすことが大切です。私もしっかりと応援させていただきますね。あ、ちなみに夜這いも受付中ですので、私の部屋の鍵は開けたまま寝ておきますね。興奮が治まらないときは私の部屋においでくださいな♡」

「いや、でも、それは…」

「そんなことを言っていたら、絶縁ですよ…。私も解雇、もしくは旦那様のメイドとして毎晩、性奴隷のような扱いを受けることになりますが、彰様はそれでもよろしいのでしょうか?」

「い、いや、それは困る! さすがにボクはあの親父の毒牙に君をかけることはできない…」

「では、しっかりと伴侶を半年かけてしっかりと探してまいりましょう」

「うん…。そうだな…。ボクも頑張ってみるよ」


 ボクはそういうと、残っていたホットココアを飲み干す。

 それほど熱さはなくなっていた。

 突然の伴侶探しとか、半端なく難しいのは分かっているけれど、やれるだけのことはやっておきたい…。

 それにいつも小悪魔な彗さんも女性慣れするように努力してくれるみたいだし…。


「とにかくやれるだけのことはやるとするか…」


 その瞬間、ボクら二人のお腹の虫が鳴いた。

 彗さんは顔を赤らめ、そっと立ち上がり、キッチンに向かおうとする。


「ごめん、そろそろお昼だから、何か食事を食べようか…」

「かしこまりました。とあらば、すぐにご用意いたしますね」


 いや、ボクだけの要望じゃないと思うけど、一切目を合わせないのは、さすがに彗さんも恥ずかしかったからだよね…?

 それにしても、ボクに伴侶なんてできるんだろうか…。



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作品をお読みいただきありがとうございます!

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