第2話 突然の旦那様からのご指令ですね! ご主人様♡②
「息子と娘が突然、姿を消した……」
「ちょ、ちょっと待って……」
「いや、私も正直どういうことか分からぬが、神隠しにように忽然と消えてしまったのだ…」
「親父、そんな状態なのに何で冷静でいられるんだよ!」
ボクにとっても弟と妹は実家の屋敷に住んでいたころはとても可愛がっていた。
二人ともヤンチャだったが、目に入れても痛くないくらいに可愛らしかった。
そんな二人が忽然と姿を消すなんて…。
「冷静でいてるわけではない。冷静に努めているだけだ…。私も心の奥底では動揺を隠せていない…。ただ、私は経営者でもあるから、動揺を
カップを持つ手が震えている。
怒りなのか、恐怖なのか分からないが、どちらにしても親父の心の動揺はボクの前では隠せていなかったということらしい。
「でも、どうやったら神隠しなんかに出会うんだ…?」
「私にもわからぬ…。使用人の話だと、天気がいいので外で鬼ごっこをして遊んでいたところ、突如、いなくなられたそうだ…。最初はかくれんぼのようにどこかに身を潜めているのかと思い、使用人たちが総出で探してみたようだが、見つからなかった…。そこで、警察に相談することになったということだ」
「それに関して、リークされたりしてるの?」
「マスコミか? それは安心していい。警察に知り合いがいるから良くやってくれているところだ。この件が表に出れば問題になるだろうからな…。息子らの学校には、仕事の関係で海外に行く頻度が増えてしまったので、海外に引っ越しさせたと話をつけてある」
まあ、かなり無理やりな感じだなぁ…。
ボクはそう思いながら、紅茶をすすっていると、
「そこで、だ。彰には申し訳ないのだが、高校に行きながらではあるが、少しずつ実家の業務…つまり家業の手伝いをしてもらう必要が出て来た」
「え? それはまた急な話だな…」
「実際、妻が心身の状況があまり芳しくない…」
「お母さんが!?」
「ああ…。本人は気丈に職務に当たっているが、彼女にとっては子どもは何よりの支えだったのだと思う。失うとショックは大きい。週に何度かは、家から出れずテレワークで取り組んでいるようだ。といっても、会議以外の時間は床に伏せてしまい、誰も入室を許可しない時間が増えてきた…」
「それは明らかに大丈夫じゃないよね…」
ボクは実家で起こっていることに大きく落ち込んでしまう。
さすがに目の前の惨状というわけではないが、それでも話を聞けば、実家がどのくらいマズい状況に陥っているのかも理解できる方だ。
「でも、ボクが家業につくといっても、なかなか難しくないか? そもそも経営のいろはも分かっていないし、それに対する実技的なこともまだだ…」
「まあ、ウチのような大きな企業になれば、たいていは下の人間がほとんどのことをしてくれる。彰は、その者たちに対する方向性をきちん示してあげることが必要だ…」
いや、その方向性を示すことが難しいんじゃん…。
分かってるのか、親父は!?
「といっても、こちらも彰がトップに立つように下準備が必要だ。彰には迷いのないよう判断できるように有能な秘書もつけるつもりだ」
「そ、それは助かります」
「そうだな…。半年! 半年後には実家の稼業にも手伝いをしてもらうつもりだ…。もちろん、学業を優先させるために、実家に帰ってくることまではしなくて構わん。このマンションでも十分に仕事はできる。今の世の中、インターネットさえあれば、山奥に住んでいても仕事はできる時代だからな…」
本当に便利な世の中になったね…。
ボクはそう思いつつ、クッキーをひとつ口に放り込んだ。
まあ、重い話だってのは分かるけれど、学業を第一優先にしてもらえるならば、助かる話だ。
聞いた話だと、高校生でCEOに就任して、アミューズメントパークを運営している人もいるらしい…。
その人物もかなりのやり手経営者のようだが、自分もその土俵に上がれることはむしろワクワクする話だ。
「いいよ。ボクは半年後にどんな業務が回ってくるか知らないけれど、しっかりとお手伝いをさせていただきます」
「そうか! それは助かるな…。そこでだ…」
「何だよ? まだ、何かあるのか?」
ボクは面倒くさそうに父親を言葉で突き放そうとする。
「まあ、そう面倒くさがるな…。その半年の間に彰にやっておいて欲しいことを伝えておく」
何だ、仕事の準備か。
まあ、それならやらなきゃならないものだな…。
「あと半年で、永遠の伴侶を見つけて、私に報告しに来なさい」
は、伴侶————。
伴侶ってなんだっけ…。
「て、伴侶だと!?」
「ああ、伴侶だ…。家業を継ぐということは当然、子孫を残していかなくては、まさか、4代目で藤井寺家を終焉させる気か?」
「いや、まあ、それはさすがにダメだと思っています…」
「そうであろう。では、そのためにきちんと子を残してくれる伴侶を見つけて次代の経営者を残さなくてはならないのは、当然、次を引き継ぐ彰の仕事のひとつであろう…」
ボクはそう言われてそのまま固まってしまった。
ボクに伴侶?
つまり、彼女を見つけて、結婚を前提に付き合えってこと!?
「では、半年だ。半年後に伴侶を紹介してくれることを楽しみにしているからな…。もちろん、半年後に叶わなかった場合は、彰、お前との縁を切る!」
ええっ!? そんな無茶な。
そもそも女の子に対する耐性もそれほどないボクにどうやって彼女を見つけろと…。
ボクは突然の片頭痛に目眩を起こしそうだった。
親父は話すべきことを終えたとあって、紅茶を再びすすっている。
「紅茶がお冷めではありませんか。新しいものとお取替えいたしますが」
彗さんはタイミング良く、親父に声をかけてくる。
「君が彗くんだね…。本当に良くできたお嬢さんだ。可能であれば実家で使用人として働いて欲しいくらいだよ…」
「それはあまりにもありがたきお言葉です」
そっと会釈する彼女。
親父はニヤリとしながら、彼女のIカップの胸元に視線を移す。
この、エロ親父め…。
「それにしても、このメイド服は彰の趣味かね?」
「いえ、これは前に働いていた場所で使用していたものでございます。少しスカートを短くしておりますが」
「おお…それは、なぜだね…」
いや、鼻の下伸ばしてんぞ、エロ親父!
彗さんは落ち着いた様子で、親父に微笑み、
「彰様がこのほうがお喜びかと思いまして」
安心しろ! 全然、喜んでないから…。
と、いいつつ、目の前にIカップがあれば、視線がそちらに向いてしまうのは本能というものだ…。
これは許してほしい。
だって、清楚な高校生のIカップなお胸だぞ!
男なら、誰だって拝みたいだろ!?
「ほほう…。女性への耐性が全くない彰にしてはなかなか腕を上げたな」
何の腕を上げたんだ?
今すぐ、あんたの脳天に拳を振り下ろしたい気分なんだが…。
エロ親父はそれだけではなく、彗さんの胸に手を添えようとする。
が、それは叶わなかった。
親父の手は彗さんの持っているお盆を触れただけであった。
「申し訳ございません。旦那様からお給金を頂戴している身ではありますが、私は彰様に仕えるメイドでございます。たとえ、旦那様でありましても、そのような行為は慎んでいただきたく存じます」
そのときの彼女の眼は何だか怖かった。
親父を射抜くようなそんなスッと細めた猫のような目は、親父すらも正常な状態に戻してしまった。
「す、すまない…。私としたことが、つ、つい、いつもの悪い癖でな…」
て、いつもやってんのかい!?
実家での親父の周りはセクハラワールドか!?
「こ、これからも息子のことをしっかり頼んだよ」
「はい、これからも、朝食から夜の営みまでしっかりとご面倒を見させていただきますわ」
何だか一部問題がある発言だが、敢えてボクは突っ込まないでいた。
親父も彼女の目に射抜かれて、委縮していてそこまで聞こえていなかったのかもしれない。
彼女がさらりと入れたライン越え発言も流された。
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