第89話 さてどうする
「リーダー、準備完了です」
二人そろって報告に来たので木島さんと一緒にお見送りのために駐車場へ出る。
「あんなに大きな荷物積んで大丈夫なんですか」
木島さんはバイクの話は聞いていたのだろうがリアに括りつけられたツーリングバッグの大きさに驚いている。まあ見るからに不安定そうで慣れなけりゃ取り回しでバランス崩してコケる事もあるから当然の感想だろう。でも俺の適当なドラムバッグとは違いちゃんとした専用品だからきっちりと固定されていて安定してるんだけどね。
「走りだしちゃえば意外と平気だよ。普段とはちょっと乗り心地が変わって面白いよ。じゃあ気を付けてね。お母さんによろしく」
「はい。来週は無理ですけど再来週は大丈夫ですからまた来ますね。でもキャンプは無理そうなんで日帰りになっちゃいますけど」
「いつでもどうぞ。歓迎するよ。でもその頃はマスターが退院してるんじゃないかな。その辺の予定がはっきりしたら教えてね」
「お母さんに聞いておきます。じゃあまた」
ゆっくりとクラッチをつないで駐車場を出ていく後姿はだいぶ様になってきている。出会った頃の肩が凝りそうな硬さは無事に卒業できたようだ。
「いい子たちですね。キャンプに誘われちゃいました」
見送りながら視線を動かさずに木島さんが呟く。
「そうだね。若いなあって思うのは俺がオッサンになった証拠だな」
「私はまだそこまで年の差は感じてませんよ。じゃあ私もこれで。また来週お願いします。えっとバイクは急がなくて大丈夫ですから。そっちもよろしくお願いします」
そう言って駐車場の軽自動車へと乗り込む。色は鵞鳥より明るい感じの青。軽自動車にしては車体が長く感じるのは昨今流行のトールタイプではないからだろう。一昔前のいかにも軽自動車らしいデザインだ。アルトでもミラでもないところに仄かにこだわりを感じる。確かこいつはダイハツのソニカだったか。女性が乗るには良さそうだ。
「それな。今晩考えてみるよ。決めたら手を付ける前に連絡するから。今日はお疲れ様。来週もよろしく」
「じゃあ失礼しまーす」
砂利を踏む音を残し青が眩しい軽自動車はバイクとは逆方向へと走っていった。
「さて、ホントにどうするかな」
ポツンと残された緑のミニバイクを眺めながら独り言が零れる。
改めて眺めると車体のバランスがいいんだな。似たようなTDRやモンキーBajaのような取って付けました感を感じさせない絶妙なデザインだと思う。
「取り敢えず小屋に入れるか。どうせバラすし」
三叉のロックを解除してきちんとキーを抜いてから小屋まで押して移動させる。
18時を過ぎてお客さんがいなければ早仕舞して今日のうちにバラシてしまおう。小屋の中ならそのまま置いておけるので楽ちんだ。どこまでバラすかはその時の気分だな。
どちらにしても店を片付けてからの話だ。それに庭にテント張りっぱなしだったのを思い出しこのままイジリ始めたいのをグッと堪えて踵を返して店へと戻った。
夕方の静かな時間の中、店内に流れるヴォサノバのリズムに合わせ鼻歌を奏でながら厨房の片付けをしていく。活躍してくれたコーヒーサーバーもきっちりと洗浄だ。
片付けが済んだら在庫の確認。食材は問題なさそう。お試しで準備していたテイクアウト用の紙コップと店内でも使うホットドッグの包装紙は半分以上残っているので来週も持ちそうだけど念のため追加で買っておくことにした。
そんなことをしているうちにふと気が付くと18時前で外の景色もすっかり薄暮を迎えていた。店を閉めるにはちょっと早いかとコーヒーを淹れて煙草に火を着ける。そのままカウンタースツールに腰を落とすと取り出したスマホで部品を探してみる。
うーん、こりゃヒドイな。予想はしていたけどちょっと驚く。同じような年代物の中古品がとんでもない値付けで並んでいる。見た目が綺麗なことに越したことはないが劣化の度合いはドングリだ。それなりに人気のあるバイクだから完全にプレミア化してしまっているようだ。人気がないので処分価格で出てきたりする鵞鳥とは大きな違いかな。代替品を探してみるもこれといった物は見当たらない。
情報の海で遊んでいるとあっという間に時は過ぎる。気が付くと19時を過ぎて外はすっかり夜の帳に包まれている。来客の気配もないのでそこで店を閉めることにした。あっテント!寝袋は三音里ちゃんが取り込んでくれたった言ってたからまあ明日でもいいか。(グータラなオッサン)
さあ火の元と戸締り確認して
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