第87話 贅沢な朝
「おーい、そろそろ起きろー。シャワー浴びるんだろー」
Tシャツ短パンにサンダル履きというラフな格好で濡れた髪の毛の水分をタオルで拭き取りながら朝陽が眩しい庭のテントに声をかける。今日もいい天気だ。
昨夜はポショポショキャピキャピ(死語)と楽しそうな二人を他所にのんびりゆったりと燻製を摘みに缶ビールを空けてから早めに寝ることとした。火の始末はきちんとしたぞ。
残念なこと(?)に今日も仕事だ。さすがに風呂にも入らずに接客というのはありえないので朝にシャワーを浴びようと昨日のうちにみんなで決めていた。
コーヒーを淹れる準備を始めるとゴソゴソと寝ぼけ眼のJK’sがテントから這い出して来る。
「おはようございまふ。相変わらずリーダーは早起きですね」
「シャワー使うなら早くしないと木島さん来ちゃうぞ」
「…まだ大丈夫ですよ。それに私、カラスの行水ですから」
それは年頃の女の子が自慢することなのだろうか。しっかり寝惚けとるな。
「いいからチャッチャっと入ってきちゃえ。バスタオルは洗面所に置いといたから」
「はーい。あっ覗きに来てもいいですよ。ニヒヒヒヒ」
「はいはい、じゃあ気が向いたらね」
「「キャー、リーダーエッチ」」
ボケに乗ってやったら騒がれた。
煩いわ!なんと朝から賑やかなことだ。さっきまで寝惚けてたくせにいきなり全開かい。オッサン揶揄って何が面白いんだか。
「そんなことしてたら君たちの朝飯は作れないんだけどいいのかな?バカ言ってないでさっさと行ってこーい」
賑やかな娘たちがパタパタと建物の中へと姿を消したところで店で挽いた豆をセットしたドリッパーにゆっくりとお湯を回しながら注ぐ。モコモコと湧く泡の様子を見ながらのハンドドリップも楽しい。
薬缶を外して空いたバーナーの上にフライパンを乗せバターを溶かしたところに卵に牛乳とマヨネーズを混ぜて溶いた卵液を投入。
そこに素早く半分に切った食パンを浸してすぐに裏返して両面に卵液を纏わせる。
片面の卵が焼けたタイミングで再びひっくり返して上を向いた焼きあがった面のはみ出した卵をキレに整えてからハムとチーズをのせて後は焼き上がりを待つ。
焼き上がりを待つ時間でチェダーチーズが程よく溶けていい感じだ。
裏面もこんがりと色付いたところでハムとチーズを内側にするようにして二枚を重ねればインチキクロックムッシュの完成です。
そのまま齧り付きたいのだが熱すぎてそれは無理。食べ頃の温度にまで冷めるのを待ちながら行水中の二人の分も作っておく。
これでサラダでもあれば立派な朝食になりそうだがオッサンにそこまで期待してはいけません。
その代わりという訳でもないが厨房からオレンジジュース持ってきました。
これでも材料の持ち運びや保管を考えなくていい環境の恩恵としては十分だろう。
そうこうしているうちに三音里ちゃんが戻ってきた。ホントに早いな。
「うわっ美味しそう。ありがとうございます。ここに住んだら毎朝これが食べられるのかー。お爺ちゃんに頼んでみようかな」
いやこんなインチキ料理くらい作りましょ。誰でもできるから。
「俺はここに住んでないっての。それより髪の毛乾かさなくていいのか?」
室内から頭にタオルをターバンのように巻いたままの三音里ちゃんに聞く。
「そうでした。つーちゃんがドライヤー使ってるから終わったら交代です」
どうやらドライヤーは翼ちゃんで三音里ちゃんはヘアアイロンを持ってくる担当だそうだ。やっぱり女の子は荷物が増えるね。この家にもマスターのドライヤーがあるはずだけど二台使うとブレーカーが飛ぶだろうから一人づつが正解だろう。コンセント回路図までは把握してません。
「あんまり時間かけると冷めちゃうからな」
「はーい、急ぎます」
食べ物の効果は絶大なようで二人とも五分もせずに戻ってきた。
「「いただきまーす」」
程よく冷めたクロックムッシュモドキを元気に頬張る。昨夜あんなに食べたのに太rゲフンゲフン。それは口にしてはいけないと俺の
気に入ってもらえたようで「美味しいね」「美味しー」となかなか好評だ。
まあ作ってもらう料理は大抵美味いんだが。
「テントは昼が落ち着くまでこのままだな。乾いて丁度いい。寝袋は外に干しておけよ」
人は寝ている間に500ml以上の水分を失うという話を聞くがテントで寝るとそれが実感できる。朝起きるとフライシートの内側には驚くほどの結露があったりする。もちろん気温や湿度の違いもあるだろうけど多くは呼気に含まれる水分や体温調節のために気化した汗だ。だから使った後は見た目は大丈夫そうでもキチンと干して水分を飛ばしておかないと悲惨なことになるので注意しましょう。
ゆっくりとした朝食の後は昨日の片付け。コンロや焚火台、食器を散水栓でどんどん洗っていく。洗い終わったら日向に立てかけてこちらも乾かしておく。洗剤やブラシはあるし蛇口も占有できるのでとってもラクチンです。
「おはようございます。昨夜はごちそうさまでした。あれ、片付け終わっちゃったみたいですね。手伝えなくてすいません」
一段落したところで丁度木島さんもやってきた。
さあ、今日も一日が始まる。楽しんだ分がんばって働きましょう。
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