第83話 お庭DEキャンプ
その後に来店したのは二組三名様のみ。明日の仕込みをしながらのんびりと接客をして17時前には再び誰もいなくなったのでとっとと片づけを済ませ入口の営業中の札をひっくり返して本日終了の貼り紙をペタリ。
ヨシッ、乗り切ったぞ。まぁ木島さん達のお陰でだいぶ余裕はあったけど。ありがたや、ありがたや。
兎にも角にも無事に今日の仕事が終わらせたんだから残りはプラーベートタイムだよな。
冷蔵庫から食材を取り出しながら冷えた缶ビールも一つ。
小気味よい音と共にプルを開けるとそのまま一口。
「くぅ〜、美味い」
コーヒーも好きだけど冷えたビールも大好きです。
庭の様子を見るに行くと暮れ始めた空の下に焚火のオレンジ色の炎が揺らめいている。三人は椅子に座って焚火を囲んで楽し気に話をしていた。木島さんには俺が持って来た椅子を使ってもらった。俺は店の裏にあったビールケースで十分かな。
火起こしも無事に終了した様だ。
「マスター、終わったんですか?」
俺に気付いた木島さんが声を掛けてくれた。
「うん、お客さん切れたから今日は店仕舞いしちゃったよ」
そう言いながら右手の缶ビールを軽く掲げる。
「あーまだ明るいのにもう飲んでる」
三音里ちゃんにちょっと呆れられた。
「文句がある人は肉無しだけどいいのかな」
「そ、それは聞いてないです。それに文句じゃありませんから。ちょっと揶揄っただけですから」
俺の言葉に慌てて素直に反応する三音里ちゃん。でもそれフォローになって無いでしょ。高校生に揶揄われるオッサンて何か情けない気がする。
「冗談だよ。食材取りに来て。厨房に出してあるから。ああ、炭熾しが先か」
年季の入ったバーベキューグリルの鉄板と網を外して焚火台から今まさに燃え盛っている薪をトングで移し、その上に箱から出した炭をゴロゴロと並べていく。火加減は側面のスライド式の通風孔で調整すればいい。
お高い炭ほど火持ちがいいのだが炭熾しも大変だったりする。でも燃えてる薪に乗っけておけば大抵は問題なく火が着くはずだ。かの有名な白炭の備長炭なんかはキャンプではオーバースペックだしコストパフォーマンスが悪い。俺は黒炭で十分派。ホームセンターの炭で焼肉程度は十分楽しめる。
薪と一緒に入れると凝った造りの折り畳み式コンロは温度が上がって歪んだりするけど昔ながらの箱型のバーベキューコンロならその心配も無いだろう。クソ重いだけあって鉄板の厚みが違う。古いのは丈夫だ。
炭の面倒を三音里ちゃんに任せて木島さんと翼ちゃんに食材の入った大型のタッパーを運んでもらう。
俺?冷えたビールの入ったクーラーボックス担当です。
厨房から荷物を持って戻るとあっという間に夕闇が迫って来ていた。
釣瓶落としとはよく言った物だ。
炭に火が着いたのかグリルからもオレンジの炎が上がっている。十分も放っておけば落ち着くかな。
ワチャワチャしている三人を横目にトライポッドを組んで焚火の上に深鍋を掛ける。鍋の中身はチキンを煮たお湯をベースに具材を足して味を調えたスープだ。鶏の出汁がしっかり出てるから簡単な味付けでも十分美味い。煮込みが必要な訳でもないのでタダの保温です。
自分のテントをチャチャッと張って並べると後ろに建物があるんでちょっと狭い感じもするが開けてる西側を向けば生垣の先に山陰に沈んでゆく夕陽の風景があってテントや焚火越しのその景色はキャンプ場と遜色ない美しさだ。気付いた三音里ちゃんに拍手だな。
火が落ち着いてきたグリルに軽く油を塗った焼き網を乗せる。ちゃんと網の温度を上げておかないとせっかくのお肉がくっついちゃうからね。
ここまで行けば準備完了だ。
「よし、準備はいいかな?木島さんはお酒…は無理か。バイクあるもんな」
バーベキューグリルを囲むように腰を下ろしたみんなを見回しながら声をかける。
俺はビールケースだけど。ひょっとしてKSRの呪いだろうか。
「大丈夫です。夕飯いらないってお母さんに連絡した時にお爺ちゃんに迎え頼んじゃいました。バイクの修理の件もあったから迎えお願いするかもしれないって言っておいたので問題なしです。ですから私もマスターと同じの貰っていいですか?」
「おっ、そうなの。飲もう飲もう。酒は一人より二人の方が楽しい」
独りで晩酌ものんびりと楽しいけど、酒を酌み交わすのも賑やかで楽しい物だ。女性が好きそうな缶チューハイでも買っておけば良かった。後の祭りだ。
しかし異性と酒を呑むなんて何時振りだろう。調子に乗って飲み過ぎないように注意、注意。
「忍さんズルーい。リーダー、鼻の下延びてますよ」
ズルいって君達未成年ですから。飲ませたら案件です。
そんなに嬉しそうにしてたんだろうか。三音里ちゃんにツッコまれた。
「ないない。気のせいです。三音里ちゃん達はウーロン茶でいいのかな。準備OK?よし、じゃあお庭DEキャンプ始めまーす。今日は一日お疲れ様でした。カンパ〜イ」
「「「カンパ〜イ」」」
それぞれ手に持つ飲み物を中央のグリルに向けて掲げてなんちゃってキャンプパーティーが始まった。
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