第81話 今日も明日もお楽しみ

 紙ナプキンを敷いた深目の皿にチキンとポテトを入れて庭に向かうと「カツンカツン」という音が聞こえる。


 庭の奥で薪割をしているようだ。建物の傍にはこちらに背を向けるようにテントが一張設置されている。ガイロープも張られていて入口の跳ね上げの庇もキチンと出来上がっている。


 テニスコート半分よりちょい広めの庭にテントのある風景。結構シュールかもしれない。


 ガイロープは舫い結びで作った輪っかにテンション調整用のゴムが付いたフックを介してペグに固定されている。テンションも反対側を自在結びにして調整済みだ。自在金具の方が簡単だけどせっかくなんで挑戦を唆してみたら見事にクリアしたようだ。


 入口の跳ね上げも支柱の上部が前方に傾くように固定してロープは斜め前方に引っ張り力を分散するように張られている。支柱は長めの枝でも代用できるけどそうそう都合よく見つからないので準備しておいた方が無難だろう。


 テントの前には組み立て済みの椅子が二脚と小さな折り畳みテーブルが二台。テーブルにはまだピカピカの小さなクッカーセットが載せられていた。


 優秀、優秀。これなら自分達だけでもキャンプに行けるだろう。

 ああ、木島さんの椅子がないな。代わりになる物探さなきゃ。


 その先にある薪棚の横では三人が薪割に挑戦しているようだ。


「カコーンカラン」という気持ちいい音の後に三人がワッと盛り上がる。


「順調そうかな?」


「あっ、リーダー。任せて下さい。薪割もバッチリです」


 俺の声に振り向いてから足元に転がる労働の成果を示す。


 今回は据え置き式の薪割器があるので楽そうだ。これは円筒形の鉄のフレームの途中に刃が固定されており上部に置いた太い薪に上からハンマーを叩きつけて割る物だ。フレームである程度は薪が直立で固定されるので手で支える必要がなく一人でも薪割ができる優れものだ。振るうのが刃物でないのも安全面からみてもいい。


 ただ使うハンマーは結構重い。重量物を振り下ろすなど普段はやらない運動なので慣れないうちは翌日に代償を支払う事になる。背中がガチガチの筋肉痛確定です。他人事だと明日の朝がちょっと楽しみ。


「差し入れ持って来たよ。一休みしたら?」


「やった!おやつ」


 ハンマーを薪棚に立てかけて三人が近寄ってくる。


「木島さん、一休みしてからでいいからチョットだけ店番頼める?」


「今でもいいですよ」


「いや、食べ終わってからで大丈夫だよ。十分くらい」


「分かりました。じゃあこの美味しそうなの食べ終わったら行きますね」


 話をしている間にJK達は散水栓で手洗いを済ませ、さっさとチキンを手に取り齧り付く。


「美味しッ」「うわーっ柔らかーい」


 そうだろ、そうだろ。揚げ物は美味いのだよ。カロリーなど忘れてしまうほどに。

 リアクションに満足して一旦厨房に戻る。


 お客さんの気配が無い事を窓から確認して俺的にメインのイベントの準備を始める。準備といっても焼き網に材料を並べるだけだけど。


 6Pチーズの包装を剥いて並べてナッツをザルに開ける。バナナを半分に切って粗挽きウィンナーの袋は庭で開ければ十分だろう。


 加工した段ボール箱とスモークウッドは庭に出られる部屋に置いてある。チップにするか迷ったけど今回は火を点けたら放っておけるウッドにした。チップは意外と火加減の調整に手がかかるらしい。


 そんな事をチマチマやっていると早くも木島さんが来てくれた。


「凄いですマスター。あれ作ったんですよね?」


「もちろん。いつものインチキだけどね」


「十分ですよ。こっちじゃお店が無いから諦めてたんですけどあのジャンクな感じ時々無性に食べたくなるんですよね。ちょっと感動しました」


「気に入ってもらえたなら良かった。ちょっと時間はかかるけど簡単だから食べたくなったら言ってくれれば作るよ。肉の準備しなきゃいけないけどね。じゃあちょっと店番お願いね」


「食材は売る程あります。というか売ってます。はい、お客さんが来たら呼びに行きますね」


 そうか弦さんのとこは鶏屋さんだった。


 店番を木島さんに任せて材料を載せた焼き網を持って庭に移動。庭では椅子に座ってポテトを摘まみながら楽しそうに話をしている女子高生が二人。


「あっ、リーダー。何かやるんですか?」


 手に持つ段ボール箱を見て早速食い付く。


「うん、燻製作ってみようと思ってね」

「段ボールで?」

「そう、段ボールで」


 不思議そうに眺める二人を前にダンボールの中に焼き網をセットしてからステンレストレイに載せた四角い木片をバーナーで炙る。上面を真っ黒焦げになるように軽く炙ってから端の方を慎重に炙って火を付けると早くもスモーキーないいい匂いが漂ってくる。


 今回選んだスモークウッドは楢。桜辺りが有名どころだけど以外に香りが強くて癖があるようなので初めてという事もあり無難な楢をチョイスしてみた。


 チップでは無くてウッドにしたのは途中の微妙な火加減の調整が必要なくて一度火を着ければ放っておけるから。二時間もこのままにしておけば程よく仕上がる事だろう。


 上面を焦がしたのは途中で火が消えるのを予防するためだ。一旦焦がす事で燃えやすくなるから立ち消えしにくいはずだ。


 ほら、焼け棒杭に火が付いたって言うでしょ。燃えやすくなっちゃうんですよ。


 着火を確認したスモークウッドをトレイごと箱の底にセットして蓋を閉めたら終了です。箱の下部にはちゃんと通風孔を開けてあります。無いと酸欠で消えちゃう。


 滅茶苦茶簡単だな、オイ。


 後は細工は流々仕上げを御覧ごろうじろってとこだな。


 こっちは今日のお楽しみだ。

 





 






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