第80話 おやつ

「そういえばリーダーの車みたいなの来てましたね」


 ホットドッグを片手にカウンターにお引越ししてた水槽のガラスを突きながら三音里ちゃんが聞いてきた。


「小っちゃくて可愛かった。でも窮屈そうでした」


「そうそう。ああいう車って不思議に大きい人が乗ってるイメージだけど今日の人達も狭そうだったね。何でですかね?」


 そんな事を俺に聞かれてもと思うが三音里ちゃんや翼ちゃんの感想には俺も同意する。身長170ちょいで60kg台の俺でも対比すると大きく見えてしまう車体のせいもあるのだが明らかにデカい人が乗ってるイメージは在る。特にミニクーパーとか。


 時々驚くような体格の人が降りてくる時がある。ちゃんとペダル操作できるのが不安になるレベルだ。


 今日の人も40代のちょっとお腹がふくよかな感じでどう考えてもハンドルが支えそうな体形でした。


 まあどんな車を乗ろうが個人の自由なのだから俺が口を出す話では無いのだがもう少し体形に合った車を選べなかったものかと心配してしまう。何故その車を選んだ?てな感じ。


 同じ変態車に乗ってるお前には言われたくないわ!とのお叱りは甘受します。


 単純に見た目に違和感が大きいから記憶に残りやすいだけだと思うけど。


「うーん、俺の場合はあの狭さが何とも言えない一体感があって好きなんだよな」


「猫が狭いとこに嵌るみたいな感じですかね」


「まあそんなとこだよ。感覚がバイクに近いとこもあるかな」


 アクセルを踏み込んだ時に尻で感じる感覚はバイク以上かもしれない。うちのチョロQなら高回転時にアクセルの僅かな踏み込みで変わる挙動が物凄く気持ちいんです。


「ふーん、そんな物なんですかね。車の免許取ったら一度運転させて下さい」


「マニュアル免許だから面倒くさいよ?」


「元々、マニュアルで取るつもりでしたから問題ありません」


 あら、そうなの?昨今は男子でもAT免許が珍しくないのに。


 でもうちのチョロQは難しいぞ。こいつが操れたなら他のマニュアルも余裕だろう。でもあのシフト感覚を知ってしまうと他がグニグニ過ぎて楽しくないかも。極端を知ってしまうと後が大変なんですよ。(生きた見本)


 将来のある娘さんを悪の道に引きずり込む様でちょっと罪悪感があるな。


「その時にまだ現役ならいくらでもどうぞ」


 年代物なんで先の事は分かりません。


「じゃあ分からないことあったら聞きに来ますね」


「おう、頑張ってみな。こっちも片付いたら差し入れでも持っていくよ」


 ペロリとホットドッグを平らげると三人は厨房を抜けて庭に出られる部屋へと入っていく。


 客足も落ち着いたし洗い物も殆ど片付いているのでこの後は余程の団体さんでも来なければ一人で十分だ。


 だから差し入れの準備でもしよう。


 準備と言っても鍋にお湯を張って骨付き鶏モモ肉を入れるだけだけど。


 差し入れのメニューはフライドチキンだ。


 フライドといいながら茹でたらボイルなのは気にしないように。ちゃんと最後は揚げますから。


 これコトコト3、40分茹でてから衣着けて揚げると肉がホロホロになって美味いんだよ。


 茹でて熱を通してるから半生なんて心配も無いし揚げすぎて真っ黒コゲなんて事も無い。超簡単。


 圧力鍋でも使えば時短できるんだろうけど道具に頼らずお手軽です。


 キャンプじゃあ油の処理とか考えると揚げ物なんてやる気にはならないけど今回はお庭DEキャンプだからこの時とばかりに作ってみる事にしました。


 鶏モモ肉は二本で一パックだったので二パック四本購入してある。俺が二本食べればいいかと思ってたんだけど木島さんの参加で丁度良くなった。


 おやつには重い気もするけど外で動いてるとお腹が減るから夕食も大丈夫だろう。


 肉を茹でている間に衣も準備してしまおう。


 バットに薄力粉と香辛料を入れて混ぜる。香辛料はチキンハーブミックスなんて便利な物が売っているので薄力粉と5:1くらいの比率で良く混ぜる。塩は10gくらいかな。ホワイトペッパーも思っているのの三倍くらい入れて自分の好みでオレガノとナツメグを少々足してしっかりと味を付ける。カレー粉とかガーリックパウダーなんかを入れても美味い。フライドチキンはこの濃い衣の味が全てだな。


 付け合わせはやっぱりフライドポテトでしょ。


 男爵はでんぷんが多くて焦げやすいのでそこはきちんとメイクィーンを仕入れました。


 凹凸が少ないから良く洗って皮付きのままくし切りだ。千切りよりもホクホクしてジャガイモの風味が楽しめる。


 パラパラと訪れるお客さんに対応しながらそんな余計な事をしていれば時間なんてすぐに過ぎる。


 客足が完全に止まった頃合を見て雑に扱うと肉が骨から剝がれてしまいそうなくらいに柔らかくなった肉を慎重にお湯から揚げて軽く水気を拭いてから溶いた卵を潜らせる。しっかりと衣で化粧をしてからフライパンに一センチくらい敷いた油の中へとダイブ。


 たちまち厨房には香ばしい匂いが立ち込めこれだけで白飯が食えそうだ。生焼けの心配はないので衣に色が付いたら完成だ。


 さて、手土産もできたし庭の様子でも見に行ってみようかな。




 


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