第76話 顔合わせ
そして迎えた土曜日の朝。晴天だが朝は少し肌寒さを感じるようになった。もう秋かな。
今日は荷物もあるので横着してリアルチョロQで店の駐車場に入ると、そこには既に荷下ろしを終えている二人の姿があった。
「リーダー、車ってズルくないですか。来るの遅いし」
助手席から荷物を降ろしているところに近寄って来た三音里ちゃんに文句を言われた。
「ごめんごめん。でも遅刻はしてないぞ」
「私もつーちゃんも楽しみで早起きしちゃったんですよ。道も空いてたから早く着きすぎちゃって」
楽しみで早起きって遠足の小学生だな。でも俺も遠出の時は同じようなものなので他人の事は言えないか。寝坊して遅刻するのを考えれば全然アリだな。
「そんなに待たせちゃった?」
「十分くらいです。冗談ですから気にしないで下さい。こんな車に乗ってるんですね。これも見た事ないですけど」
「古いからね。三音里ちゃん達より年寄りだ。でもまだまだ元気に走るぞ」
荷物を降ろし終わり幌を戻して内側のストライカーにロックを掛けたらながら答える。
「何となくリーダーの趣味が分かってきました。車もバイクも変わったのが好きなんですね」
何と失礼な。現状では全く反論できませんけど。
でも決して新しい物や大人気な物が嫌いな訳ではないのだ。売れている物はそれだけ多くの人が価値を認めた良い物だと思う。だけどそれだけで選ぶのは何か違うだろうしみんなが持ってるんだから俺もとはならないだけだ。結局は自分に合うか合わないかで考えてしまう。
やっぱり感覚がズレてるのだろうか?
甘いものが好きな人がいて辛い物が好きな人がいる。
メジャーが好きな人もいればマイナーが好きな人もいる。
新しい物が好きな人がいれば古い物が好きな人もいる。
そこはそれぞれでいいと思う。色々あって当たり前なのだ。
それが車やバイクならたとえどんな物でもオーナーにとってはそれは立派な愛車だ。他と比べるのは何か違うだろう。
そんな事を想いながら辛うじて反論を試みる。
「それはちょっと違うな。好きになったのが他から見たら偶々変わった物だっただけだ。強いて言うなら好きなのは楽しい物だな」
「はぁ偶々…」
「…あんまり違いが分かりません」
二人は視線を交わすと翼ちゃんがポツリと一言。普段あんまり喋らない子の一言は重みが違うな。オジサン泣きそう。
「二人ももう少し年を取ればきっとわかるよ。さあ店に入ろう」
この話を続けても劣勢は覆りそうにないので雑談を切り上げドラムバックを担いで店へと向かう。
まずは店の奥に荷物を置く。二人の荷物もバイクに積める程度だし大物は搬入済だから大した量じゃない。食材がないだけで全然楽ちんだ。
その後は店に戻って簡単な説明。昨日木島さんに話したのとほぼ同じことを少し要領よく繰り返す。
二人は「ふむふむ」と神妙な態度で聞いているが目がキラキラしすぎて何か危険な気もする。ホントに聞いてるのかな?
そうこうしているうちに木島さん到着。
「おはようございます」
「おはよう。今日も宜しくね。バイク大丈夫だった?」
「その件でちょっと相談が…。後で聞いてもらってもいいですか」
「うん?構わないけど夕方でいいかな」
「はい。お願いします」
カウンター越しにそんな会話を交わしていると俺に向けられた視線に気づいて振り返るとビックリ顔が二つ。
「どうした?」
「リーダーが綺麗な人と楽しそうに話をしている。ま、まさか彼女さんとか?」
俺だって女性と会話ぐらいするわい。何変な事言ってんだか。
「ああ、言ってなかったっけか。彼女は週末だけ手伝いに入ってくれる事になった木島さんだ。いうなれば君たちの先輩だな。彼女は優秀だから何か困ったら取り敢えず彼女に聞いてみて」
二人がペコリと頭を下げる。
「彼女たちが昨日話したマスターのお孫さんとその友達、三音里ちゃんと翼ちゃん。まだ高校生だから色々教えてあげてね」
その流れで振り向いて木島さんにも二人を紹介。
「私も昨日一日しかやってないんですから変わりませんよ。そこは先輩じゃなくてせめて同僚にしておいてください。確かに年はくってますけど。木島 忍です。よろしくね」
「「宜しくお願いします」」
二人は納得がいったのか元気に挨拶を返した。「そうだよね〜」みたいなニヤケ顔で俺を見ないように。
「一通りは説明したから分担とかはそっちで決めちゃっていいよ。ああ、あと今日はこれをやってみるんでそれだけ説明しておこうか」
取り出したのはパウチしたA4サイズの紙。
そこには――
『ホットドッグ・コーヒー テイクアウトできます』
――のデザイン文字とイラスト。
昨夜、頑張って作りました。文字やイラストはネットから拾ったフリー素材だから著作権とかは大丈夫だと思う。…多分。
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