第52話 初めてのお客様

「では、メニューとお水をお持ちしますね。席はお好きなところへどうぞ」


 他に客がいる訳ではないので案内の必要はないだろう。カウンターでお冷を準備してから手作りメニューを持ってテーブルへと向かう。


 二人は俺が最初に座った奥の席を選んでいた。やっぱりあそこが落ち着くんだよね。


「どうぞ。メニューはこちらになります」


 水を置いてからテーブルの中央にメニューを置く。


 パソコンで作ってコピー用紙に印刷したものをパウチしただけの簡単なペラ一だ。



【お食事】


〇 カレーライス (サラダ・スープ付き)    800円

〇 ハヤシライス (サラダ・スープ付き)    800円

〇 オムライス  (サラダ・スープ付き)    800円 

〇 ナポリタン  (サラダ・スープ付き)    700円

〇 カルボナーラ (サラダ・スープ付き)    700円

〇 ペペロンチーノ(サラダ・スープ付き)    700円


〇 ホットドック                500円


※ 上記メニューには100円でドリンクメニューの飲み物を追加できます。

 (ビール・ノンアルコールビールを除く)




【お飲み物】 


〇 ホットコーヒー               300円

〇 アイスコーヒー               300円

〇 コーラ                   300円

〇 ウーロン茶                 300円

〇 オレンジジュース              300円


〇 瓶ビール(中)               600円

〇 ノンアルコールビール            300円



 頭の悪そうなメニューで申し訳ない。利益率など何も考えていない値付けです。

 素人料理でお金を貰うのはかなり気が引けたけどそこは繋ぎだからと割り切る事にしました。ちゃんとマスターの許可は貰ったんで勘弁してください。


 ハヤシライスはカレールーのメーカが出している物でこちらも中々味がいい。カレーがスパイスが利いているのに対してハヤシのルーはまろやかで甘みがある。材料はカレーが豚肉でハヤシが牛肉の違い程度なので手間は殆どかかりません。経費で落としてくれるらしいんで両方共1kg入りの大袋を急遽ポチりました。


 パスタは時間がかかりそうなイメージだけど予め乾麺を水に浸けておけば茹で時間は一分ちょいだ。水に浸けたパスタは歯ごたえが生パスタっぽくなるし冷蔵庫で2・3日、冷凍すれば一月は保つので意外とお手軽だ。メジャーなミートソースは仕込みが必要なので今回は除外です。


 一番手間がかかるのはオムライスだな。オーダーが入らない事を祈ろう。

 そこ、じゃあ書かなけりゃいいのにとか言わないように。

 三音里ちゃんとお母さんの推しだったんで外せませんでした。


「私は決まってる。カレーを食べに来たんだからな。お前はどうする?」

「ナポリタンなんていいわね。ちょっと懐かしいわ」

「カレーとナポリタンですね。お飲み物はよろしいですか?」

「じゃあ食後にホットコーヒーを二つ頼むよ」

「はい、ありがとうございます。では少々お待ちください」


 初オーダーを受けて少々緊張気味に調理に取り掛かる。


 フライパンに油を曳いて火にかけてから冷蔵庫からスライスした玉葱、ピーマン、マッシュルームにベーコンをボウルに取り出す。調理台にはトレーを並べ、同じく冷蔵庫から取り出した盛り付け済みのミニサラダとカトラリーをセットする。


 フライパンが温まったら玉葱とベーコンを炒めていく。程よい所でケチャップとマッシュルーム、ピーマンを投入。マッシュルームは熱を入れすぎると硬く縮こまってしまうしピーマンは香りが飛んでしまうので後入れだ。具材とケチャップを馴染ませたら弱火にして少し時間をかけてケチャップの酸味を飛ばす。フライパンから手が離れたタイミングでカレーを小鍋に移し弱火にかけて温める、お湯に塩を入れて沸かした鍋に二時間ほど水に浸しておいたパスタを投入。一分半も茹でれば立派なアルデンテだ。


 パスタは一本取って茹で具合を確認したらお湯を切ってバターと粉チーズ、隠し味の醤油を少々振ったケチャップの海へダイブ。強火で煽ってちょっと焼き感を付けてから皿に盛りつければパスタの調理は終了。カレーはご飯を盛って温めたカレーをかけるだけ。 


 スープカップにスープをよそってサラダにマスター自家製の人参ドレッシングをかければ完成だ。


「お待たせしました。カレーとナポリタンですね。ゆっくりどうぞ」


 二人の前にそれぞれのトレーをサーブして完了だ。無事に作れて良かった。


「うん、美味いな。弦八さんが勧めるのも分かるよ」

ナポリタンこっちも美味しいわよ。今度あの子たちが来たら連れてきましょうか」


 評判も上々な事にホッと胸を撫でおろしながら俺はカウンターでコーヒー豆を挽く準備を始めるのだった。

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