第47話 縁は異なもの
「何でリーダーがいるんですか?」
扉を開けて姿を現したのは初めて見るスカート姿の三音里ちゃんだった。
「いやそれこっちの台詞だよ。お爺ちゃんてまさか…」
視線をマスターに移す。
「おやおや、豊田君は三音里と知り合いなのかい?私の孫だよ」
「そうだ、お爺ちゃん大丈夫なの?」
「ああ、彼のお陰で助かった。それより三音里は豊田君と知り合いなのかい?」
「リーダーはバイクとキャンプの師匠なの。でもどうしてリーダーがいるの?」
「フフ、それでリーダーか。彼は店のお客さんだよ。具合が悪くなった時に居合わせてくれてね。すっかり世話になってしまった。そういえば三音里は一人で来たのかい?」
「ママは入院の手続きしてる。もう来ると思うよ」
するとパタパタと慌ただしい足音と共に一人の女性が病室に入ってきた。
「お父さん!大丈夫なの!?」
「路子か。すまんな、迷惑をかけた」
「だから趣味の店なんてもう辞めてゆっくりしてって言ってるのに。あらごめんなさい、こちらの方は?」
俺の姿に気付いた娘さんが当然の疑問を口にする。まあ娘さんて言っても俺より年上の訳だが。
「ああ、店のお客さんの豊田君だ。すっかり世話になってしまった」
「豊田です。初めまして」
「娘の路子です。父が御迷惑をおかけしてしまった様で申し訳ありませんでした。後は私がいますからお引き取り頂いて大丈夫ですよ。御面倒をおかけしてすいませんでした」
「いえいえ、迷惑なんて。大事にならなくて良かったです。それじゃあ私はこの辺で失礼しますね。そうだこれ」
ポケットから戸締りの為に渡されたキーケースを取り出した。
「豊田君、つでに頼まれてくれないか。鍵は持っていて構わないから店の様子を見ておいてもらいたいんだが」
「お父さん、そんな事は私がすればいいじゃない。豊田さんだってお仕事があるでしょうし」
いやー恥ずかしながら来月から無職なんですが。
噂通りに始まった希望退職の募集に手上げした。再就職の宛がある訳でもないから無計画だとも思うが、この機会を逃せば次はもっと条件が悪くなるように感じた。今なら自分から積極的に動けると思ったからだ。
幸いにして住むところには困らないし多少の蓄えもある。ここはじっくりと腰を据えて将来の自分を考えようと思った訳だ。
そんな話もマスターとはしていたので今日は暫らくは来れなくなるかもしれないと挨拶も兼ねて店を訪れたとこだった。
「お前や哲也君じゃ無理な物があるんだよ。今回は少し長引きそうだから放って置くわけにもいかない物がね。それにお前達は自分の仕事が忙しいだろう?どうだい豊田君、頼めないかな」
無理な物とは
「俺でいいなら構いませんよ。幸いと言っていいのか来月からは自由の身ですから」
訝しがる娘さんに簡単に自身の身の上を説明すると
「そうなんですか。でも本当に迷惑じゃありませんか?ご自分が大変な時に。確かに私も主人も仕事の都合もあってあまり時間に余裕はないんですけど…」
話を聞くと旦那さんはマスターの会社を引き継いでおり娘さんもその補佐で役員らしい。会社は県内で飲食店をメインに手広くやっている様で、このご時世ご多分に漏れず中々舵取りが大変なようだ。しかし三音里ちゃんは社長令嬢か。百万円のバイクにちょっと納得した。
「ああ、代わりと言っては何だが店の食材は自由に使っていいよ。三音里に聞いたが豊田君は料理も出来るらしいじゃないか。悪くなって捨てるくらいなら使ってもらった方が有難い。何なら店を開けても構わないよ」
俺が娘さんと話をしているうちに三音里ちゃんから何か話を聞いたらしい。
「料理は嫌いじゃないですけど調理師免許がある訳じゃないですからさすがにそれは」
「調理師免許などいらないよ。私も持っていないしね。バイトの学生が料理する事なんて良くある話だ。食品衛生管理責任者は私のままで自由にやってくれて構わないよ。なに、客といっても弦さんみたいな人達ばかりだから事情を話せば問題ないよ。店を開けなくとも灯りを点けておけば寄ってくれる近所の馴染みさんたちに事情を説明してくれると助かる。貼り紙だけでは余計な心配をかけてしまうかもしれないからね」
飲食店では調理師免許が必須と思っていたのだがどうやら違うようだ。後で調べたら食品衛生管理責任者と防火管理責任者の資格があれば問題がないそうだ。それも講習を受ける事で比較的簡単に取れるらしい。食品衛生管理責任者資格は調理師免許を持っていればその講習も必要ないという事みたいだ。
しかしなんだこの想定外の選択肢は!
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