第45話 選ぶ意味

 周りも食事が一段落したのかワサワサとした活気のある賑わいから静けさの中の語らいの時間へと移っていく。


 遠くに見える街の灯りとその先にある真っ黒な海。それにフリーサイトのあちこちの焚火の灯りが何とも幻想的だ。


「夜のキャンプ場ってこんな感じなんですね」


 声に振り向くと二人が椅子を持って隣に来ていた。猫はねぐらにでも帰ったのだろう。


「たまに騒がしい奴らがいる事もあるけど今日は大丈夫みたいだね。料理とか色々やるのも楽しいけど俺はこの何もしない時間がキャンプの一番の楽しみだと思ってるんだ。今日は天気もいいから二人にもぜひ楽しんで欲しいな」


「はい。いつもは明かりが周りに溢れてるから凄く新鮮です。街の夜は黒い感じですけどここの夜は蒼い感じがします。不思議」


 夜空を見上げると大きな月がこちらを見下ろしている。今晩は十六夜だったか。美しい月は有り難いが星明りが霞んでしまうのは残念だ。


「こんな事オッサンが高校生に聞く事じゃないだろうけど、あんまり自分好みじゃないけどうっすらと先が見えてる道と全く先の様子は分からないんだけどひょっとしたら自分が望むものがあるかもしれない道があったら君達ならどっちを選ぶ?そこで決断しないとうっすらと先が見えてる道に進んじゃうんだ」


「その道は死んじゃう訳じゃないんですよね?なら自分が望むものがあるかもしれない道かな」

「最悪その道は引き返せますか?」


 珍しく翼ちゃんが乗ってきた。


「そうだね。早い段階なら戻れるかも。ちょっとみんなからは遅れちゃうかもしれないけど」


「なら私も三音里ちゃんと同じですね。その時に選ばなかったらずっとその事を考えちゃいそうだから。自分で選んだのなら失敗したとしてもきっと納得できると思います。お父さんには反対されたけどバイクは正解だったと思うから。あの時言われるままに諦めてたらこんな楽しいキャンプは経験できなかったですし」


「そうそう、私も同感。でもどっちの道を行くのも決して間違いじゃなくて要はその時に自分で選んだかどうかだと思います」


「どっちに進んでも自分で決める事が大切って事だ。選ぶ意味はどちにするかじゃなくて選ぶ行為そのものに意味がある訳だな。なるほどね。勉強になるよ」


 高校生の言葉で改めて気付くマヌケな大人である。


「偉そうに言っても無責任な学生の言い分ですけどね。そうできたらいいなって感じです。急にどうしたんですか?」


「いや年を取ると色々あってね。ひょっとすると暫くはキャンプにも行けなくなるかもしれなくてね。せっかくの機会だから若い人の意見も聞いてみようかなって」


「大人はやっぱり大変なんですね。学生の我儘に付き合わせてすいません」


「いやいや、俺もしっかり楽しんでるからそこは俺がお礼を言うところだよ。変な話しちゃって悪かったね。それより最近の学校の話でも教えてよ」


「えー、リーダーも女子高生の生態に興味あるんですか?」


「女子高生のというよりも今時の高校生のってとこだな。俺の周りには君たちくらいしかいないから他にソースがないんだよ。多分、何を聞いても面白いと思う」


「フフッ、冗談ですよ。そう言えばこないだうちのクラスで…」




 掛け替えのない貴重な時間は思い出だけを残して楽しい語らいと共に過ぎてゆく。


 うん、グループキャンプもいいもんだ。



 薪が燃え尽きるのを潮にそれぞれのテントへと入る。


 二人のテントは俺と同じような二、三人用にしたそうだ。それぞれでソロ用を買うのも検討したらしいが暫くはソロで行く事も無いだろうと一緒に寝られる物をチョイスしたそうだ。まあ、女の子のソロは色々大変だし危険もあるので妥当だと思う。本音はお喋りしていたいかららしいけど。ちゃんと寝ないと明日厳しいんだが大丈夫かな。


 俺はさっさとTシャツと短パンに着替えてフルオープンにした封筒型の寝袋の上に転がる。夏場は保温のための荷物が少なくて済むのがいい所だが、山の中のキャンプ場は都会では想像できないほど朝に冷え込んだりするから油断は禁物だ。


 寝床にはコットを使った方が風通しが良く涼しいのだろうが俺はいつものようにマットで済ませる。コットも試してみたのだが安物のせいかギシギシと五月蠅く寝返りの度に起きてしまうし、動ける範囲が限られるので寝ている間もちょっと窮屈な気がしてあまりいい思い出がない。まあ俺の寝相が悪いだけなんだが。


 遠くに虫の音が聞こえる。どこかの動画で欧米人は虫の音を雑音として聞き流してしまうとか不思議な喋る犬が語っていたことを思い出しちょっと可笑しくなった。


 そんな事はさておき明日の予報も晴れ。太平洋から昇る朝日をぜひとも拝みたい。程よい疲れと酔いを纏ってさっさと眠りに就きましょう。

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