第44話 岐路
人生には幾つもの岐路がある。進学だったり就職だったり結婚だったり。
あの時、違う道を選んでいたらどうなっていたんだろう。
誰でも考えたことがあるはずだ。
そして俺は今まさにその岐路に立っている。
「リーダー、次どうしますかー?」
「ん?じゃあ次は炭を熾そうか」
そう、テントを立てたら次は火の準備…じゃなくて!
いや、キャンプなんだから火の準備も必要なんだけどそんなのは岐路でも何でもないから。ただの手順だから。
せっかくシリアスにはるか遠くの水平線を見つめながら人生を考えてたのに。
うん、似合わないのは俺が一番わかってます。
梅雨も明け、いよいよ夏本番の七月下旬。ここは遠くに海を臨む事が出来る高台にある綺麗に整備されたキャンプ場だ。
以前の約束を果たすために夏休みに入った女子高生’sを引き連れてキャンプにやってきました。
二人とも荷物を積むためにリアキャリアを取り付けてお揃いのツーリングバッグまで買って気合入りまくりなんだもの。俺がソロで行くようなショボいキャンプ場じゃ可哀そうかなと日和りました。
何事も最初の印象は大事だからね。いい思い出にしてあげたいものだ。
広さはそれほどでもないが綺麗に整備されたフリーサイトは緑が輝く芝生に覆われている。当然、直火は禁止です。区画が整備された場所には電源もあり家族連れのキャンパーも多い今風のキャンプ場だ。
立派なセンターハウスでは薪や炭も買えるしシャワーも利用できる。何なら手ぶらで来てもレンタルでキャンプができたりするらしい。俺は荷物の準備をするのも楽しみの一つだと思うから使わないけどうっかりと忘れたりしたときは便利そうだ。
昨今のブームのせいか平日にも関わらずそこそこの人出だ。あちこちから子供の楽しそうな声が聞こえる。夏休みだもんな。
俺?俺はいつもの有給休暇。今使わずにいつ使うという感じなのですよ。
このところの感染症の騒ぎで職場の業績が宜しくないのは小耳に挟んでいたんだけど本格的にヤバくなってきたらしい。俺も己の身の処し方を結構真面目に考えざるを得ない状況になっています。ね、立派な人生の岐路でしょ。
まあ俺は実家住まいだし扶養家族もいない暢気な身の上だからまだマシでしょ。悩んでも状況が好転する事も無いだろうし。今できる判断は流されるように最後まで頑張ってみるか意志を持って来月には始まると噂される希望退職に手上げすかかな。そんな事で近い将来に訪れるであろう無期限の無給休暇に備えて限りある有給休暇を楽しむことにしました。どちらを選んだとしてもきっと何とかなるさ。
今は今晩のご飯に集中しましょう。
いつもの総菜とおつまみじゃ可哀そうなので今日はキチンと食材を買い込んでみました。カレーは定番だけど前回作ったからね。今日は違う物。
まずは鶏もも肉を下ごしらえ。袋にチューブの生姜とニンニク、少々の塩を入れて良く揉んでからちょっと放置。メスティンにスタンバってる米に水の他に醤油とだしの素を少々混ぜて鶏肉を覆いかぶせる様に乗っけたら梅干を一つ入れて後は普通に炊くだけ。梅干は鶏肉の臭み消しみたいなものだ。炊き上がったら鶏肉を食べやすい大きさに切って醤油、砂糖、酢で作ったタレをかければなんちゃってカオマンガイの完成です。彩でパセリかパクチーでも振ればなお良し。
流石に一品では寂しいので他にも作ります。
クッカーの小さなフライパンにオリーブオイル、マッシュルーム、刻んだブロックベーコンを入れてアヒージョの素を入れただけだけど。女性にはどうかと思ったけど追加で投下したニンニクがいい仕事してます。ホクホクが堪らん。油をバゲットに染み込ませて食べるのもgoodだ。これも火にかけておくだけだから楽でいい。油も百均の小瓶は割高になっちゃうけど使い切るには丁度いい量だ。
もちろんツマミも作りますよ。適当に切った厚揚げを缶詰のタイカレーに潜らせてからホットサンドメーカーで表裏を少し焼いてみました。程よく焦げてるところが香ばしくて最高です。これは酒のアテにはなかなかいいかも。
俺が呑兵衛を満喫している間に女子高生’sはデザートタイム。竹串に挿して焚火で炙ったマシュマロをビスケットにチョコと一緒に挟んだのを美味しそうに頬張っている。結構な量を食べてるはずだけど言わぬが仏なのだろうか。
食事も終わりを迎えようとする頃合いに一対の瞳がこちらをジッと見ている事に気付いた。食材が溢れるキャンプ場に野良猫が住み着くのは良くあることだ。それを売りにしているキャンプ場もあるくらいには。
俺は徐にバッグから秘密兵器を取り出す。こんな時にそなえて〇ュールを常備してたりします。人間の食べ残しあげても食べるんだろうけどぬこの身体にいいとは思えないからね。野良に餌やりすること自体褒められた事ではないんだろうけど出来れば元気でいてもらいたいから。
近づいてきた猫をよく見ると片耳のさきが欠けている。不妊手術済の地域猫かな。そのせいなのか普通の野良猫より人懐っこい。突然の来客に気が付いた二人が近づいてきても逃げる気配もなく撫でられている。
俺はそんな風景を眺めながらこんな小さな触れ合いも楽しい物だと缶ビールを煽って空けると、次の一本に手を延ばした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます