第41話 褒められるのは嬉しい
「満足というか驚きました。キャンプなんかで色んなソーセージ焼いて食べてるんですけど初めての経験ですね。ソーセージを舐めてたかもと反省したいくらいですよ」
「なら良かった。キャンプもやるのかい?ますます私と気が合いそうだ。私もバイクが好きでね。良かったら帰りにでも愛車を見せて下さいよ。お返しと言っちゃなんだが良ければ私のも見てもらいたい。最近は体力も落ちて乗ってやれないから埃被ってるかもしれませんがね」
「お見せする程立派なバイクじゃないですけど構いませんよ。三十年落ちの古いヤツですからガッカリしないで下さいね」
「ふふふ、大丈夫ですよ。私のはもっと古いから」
苦みの効いたアイスコーヒーを飲みながらそんな話をしているとドアベルが来客を告げた。
『カランコロン』
「いやー暑い。車のエアコン壊れちまったみたいで参った。シンさん、いつもの頼むよ。ん?」
入って来たのは長袖のポロシャツに作業ズボン、ゴム長を履いて首に農協のタオルをかけた見事なテンプレの農家のお爺さんだ。
応えのない事を不審に思ったのかカウンターの奥を覗き込んでからようやくこっちに気付いた。
「ああ、お客さんか。珍しいな」
「珍しいは酷いな。それよりいつものでいいのかい?」
「おう、いつもので頼むよ」
それを聞いて頷いた店主は爺さんとすれ違うようにカウンターの奥へと入っていった。お爺さんは隣のテーブルに腰を下ろすと警戒心の欠片もなく話しかけてきた。
「兄さんこんな店に来るなんて物好きだね。表の単車兄さんのかい?」
「はい、たまたま目についたんで」
「何喰った?」
「ソーセージグリルを」
「ここのソーセージは美味いからな。美味かったろ?」
「はい、ビックリするほど」
「そうかそうか。そりゃ良かった」
まるで自分が褒められたかのように満面の笑顔だ。
そんな世間話をしているうちに注文した料理が出来上がったようだ。
「はい、お待ち。いつものポークソテーね」
テーブルに置かれた鉄皿にはこれでもかという厚みの豚肉が乗っている醬油ベースのソースが焦げる匂いが食欲をそそる。
「弦さん、たまには自分とこのうまい鶏肉食べればいいじゃないか。この人はねうちにも鶏肉を卸してくれてる養鶏業者さんなんだよ」
「鶏肉はもう嫌というほど食った。だから外では違う肉を食うと決めてる。それに鶏屋は息子のだ。わしゃ畑いじりしてるただのジジイだ」
そう言って美味そうにポークソテーを頬張る。その姿を見ていると年配者の方が肉を食べるべきというのは合っている気がした。
「じゃあ私はこの辺で。御馳走様でした。また寄らせてもらうと思います」
「いつでも歓迎するよ。定休日はないからね」
アイスコーヒーが無くなったのを頃合いに席を立つ。
会計を済ませてから外に出ると店主もついてきた。
「ほう、グースか。面白いのに乗ってるね。綺麗に乗ってて大したものだ。修理上がりっていってたけどどこが壊れたの?」
「点火系がダメでした。部品取ってステーターコイルとCDI交換して何とか」
「へぇそんな事も出来るんだ。大したもんだ。これはもう長いの?」
「春前に友人から貰ったんで長く乗ってる訳じゃないですね。不動車だったのを何とか動く様にした途端に今回の故障でしたから参りました」
「へぇ、不動車起こしたとは思えないくらい綺麗だね。これはカッティングシートか。バイザーも似合ってる。綺麗に仕上げてるね。きっとバイクも喜んでるよ」
「そうだといいんですけどね」
自分の物を認めて褒めてもらえるのは幾つになっても嬉しい物だ。
「ああ、私のはこっちだよ」
そう言って駐車場の端にある納屋へと歩いていく店主の後ろをついていく。
扉の南京錠を外して大きな観音開きの木製扉を開けるとそこには圧倒的な存在感と共にそいつがいた。
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