第33話 ジッショク!
ここまで来れば後はノンビリと過ごしましょ。
鍋は俺が見ておくと言ったら女子高生’sは水辺へと楽しそうに走って行った。
キャピキャピ(死語)とはしゃぐ姿は隣の家族連れの子供と変わらん。てか、まだリアル子供か。
これで冷えたビールでもあれば最高なんだけど今日は日帰りなんで飲めません。仕方がないので咥え煙草でソフトクーラーから取り出した〇クターペッパーの蓋を捻った。
焚火台の鍋を覗き込み、時々かき混ぜながら〇クペをチビチビ。既に見た目は立派なカレーだ。香辛料の香りが食欲をそそる。
ポケットストーブの固形燃料が燃え尽きそうな頃合いで二人が奇声を発しながらパタパタと走って戻ってきた。
「「ウヒャー」」
「ん?どうした?」
「む、虫が!蜂みたいなデッカイ蠅みたいな虫が急に飛んできて!」
周りをキョロキョロと気にしながら翼ちゃんが説明してくれた。
「あーあ、
俺はそう言ってバックから取り出したスプレーの小瓶を渡した。
「虫よけですか?」
「そう。手作りだけど意外と効くよ」
百均の小さなスプレーボトルに詰めてあるのはハッカ油を水と無水エタノールで薄めたやつ。市販品の様にサラサラになったりはしないけど匂いが好きで俺はいつもコレだ。腕と首筋に吹いて延ばすだけ。あまり刺されたり咬まれたりしたことないから効果があると思ってます。信じる者は救われる。きっと。
寄って来てたのは恐らく虻。水辺には特に多いんだよな。蠅の仲間らしいけどコイツは咬んで血を吸う。蚊よりデカいから腫れもデカくなる。動きは蜂よりも早いからホント厄介なんだよな。昔は何処にでもいた気がするが二人の住む都市部じゃあ見かけないのかもしれない。最近は蠅も見なくなったよな。
そんな事をしているうちに固形燃料が燃え尽きたようだ。二人に教えながら噴きこぼれの跡が見えるメスティンをタオルに包んでひっくり返す。俺はココで飯盒の時からの癖でメスティンの底を軽く何度か叩く。あんまり意味は無いらしいのだが最初に教わったので今も謎儀式として続けている。そして再び放置して蒸らす。さあ、完成は目前だ。上手く炊けてる事を祈ろう。カレーでご飯を失敗すると結構悲惨です。(経験者談)
最後の待ちの間は二人で焚火台の前にしゃがんで鍋をかき混ぜながら楽しそうに話をしている。手には麦茶とジャスミンティーのペットボトル。どこかのオッサンのように砂糖ガバガバのジャンクな炭酸飲料なんて飲まないとこが上品だ。見習えよオッサン。少しは長生きできるかもよと自分に語り掛けてみた。
「よし、メスティン開けるぞー」
タオルから取り出したメスティンの蓋を一斉に開ける。
「せーの!」
『パカ』
蓋が外れると共に漏れ出す米の香りの湯気。うん、成功のようだ。
「うわー美味しそう」
「いつものご飯よりピカピカしてるみたい」
二人も炊きあがりに満足したようだ。
スプーンでご飯を解していくとカレーライス用に水を少し減らしたから底のご飯が焦げている。これもまた外料理の醍醐味だろう。
「まだ昼前だけど冷める前に食べようか」
ここまで来て時間調整のお預けは無理。出来立ては正義です。
俺のメスティンは昔ながらの大きさなのでそのままカレーを掛けられるが、二人の百均メスティンは小さい一合用なのでご飯を半分蓋に避けてからカレーを掛けた。
うおっ、美味そう。
いざ、実食!
「「「いただきまーす」」」
『パク』
「「「………」」」
二人がモグモグしながら顔を見合わせた後に俺を見た。
俺は二人の視線を受けて静かに頷いた。
「旨っ!」
「「美味しー!!」」
言葉こそ違えど伝えたい気持ちは同じだった。
「凄いですこれ。お店のより美味しいかも。自分で作ったなんて信じられない。ママに自慢できるかも」
一口目を呑み込んでからまくし立てる様に喋る三音里ちゃんの横で、うんうんと頷きながら二口目を頬張っている翼ちゃん。意外と食いしん坊なのかな?
「外で食べると不思議と何でも美味しく感じるよ。でもこれはそれを差し引いてもいい出来なんじゃないかな。失敗しなくてホッとしたよ」
いや、ほぼカレールーのお陰だけど。
「濃いっていうか厚いっていうか不思議な味です。最初に甘みを感じるけど喉を通るころには香辛料の辛みと香りが残る感じ。これ売れますよ」
「このルーは業務用みたいなものだから似た味の店もあるかもね。まだ残ってるから好きなだけ食べな。残ってもタッパー持って来たから無理はしないでね」
その後は和やかにキャンプの話をしながらノンビリと過ごした。大して面白いとも思えない話も楽しそうに聞いてくれた。ソロも楽しいけどグループのこんな感じもいいもんだなと改めて思いながら楽しい時間はゆっくりと過ぎていった。
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