第30話 リピーター確定
この品揃えをこの値段で並べられてしまっては選びきれないのは仕方がいない。
でも百均でも結構な種類があったな。
どちらで買うべきか。
うーん悩ましい。
「キャンプとかするんですか?」
「おうっ!」
いきなりかけられた声に振り向くと三音里ちゃん達が後ろに立っていた。
夢中になっていて近づいてきたのに気付かなかったようだ。
おもちゃ売り場の子供の様でちょっと恥ずかしい。
「うん、時々ね」
「バイクで行くんですか?」
「その時によってかな。この前はバイクだったよ」
「私達もできますか?つーちゃんと行ってみたいねって話はしてるんですけど色々難しそうで」
横で翼ちゃんがウンウンと頷いている。
「最低限の道具があれば誰でもできるよ。道具は色々あるけどやってみて足りないと思ったら買い足していけばいいんだよ」
目の前に並んでいる道具を示しながら簡単に用途を説明していく。
「絶対必要なのはテント、寝袋、マット、ランタン、椅子とテーブルくらいかな。調理器具やバーナーがあると料理もできて楽しいよ。あと焚火台とか」
「ここでみんな揃っちゃいますね」
「そうだね。さすがに全部揃えたらいい値段になっちゃうけど昔よりは全然安いよ。テントとか寝袋みたいな大物を後にしてとりあえずデイキャンプから初めてみたらいいんじゃないかな」
「でも泊まらなかったらキャンプじゃないじゃないですか」
「そんな事ないよ。外でゆっくりするだけでも十分楽しいよ。それで泊ってみたければ必要な道具を買い足せばいいんだよ。何も分からなうちに物だけ揃えても荷物ばっかり増えてバイクじゃ載せられなくなっちゃうぞ」
二人のバイクは鵞鳥と同じロードスポーツだ。大荷物を載せるには向いているとは言えない。まだしもしっかりとした荷台の付いているカブの方が荷物は積めるだろう。必要な物を吟味して選ばなければそもそもの移動すら難しくなってしまう。
「うーん、確かにそう言われればそうなんですけど…」
キャンプは誰でも出来そうなイメージだけど意外と向き不向きがあると思う。
まず潔癖気味の人はやめておいた方が無難だろう。昔より設備が整ったキャンプ場が増えたとはいえ泥や砂は当たり前だし就寝前の風呂なんかない。
トイレだって流し場だって当然ホテルの様に清掃が行き届いてピカピカなんて事はない。
他の人が握ったおにぎりが食べられないようならやめておいた方がいい。
キャンプ場に文句を言う前にホテルの予約を取る事をお勧めする。
あとこれからの季節なら虫だろう。
どれだけ対策しても全く虫がいない環境は望めません。
蚊から始まって蠅、蜘蛛、蟻、蜂、虻、蛾、蛭、etc、etc…。キリがない。
カブト虫とかはテンション上がる。
だから虫が少ない寒い時期のキャンプが好きな人もいる。
そんなだから野外の不便さを受け入れられるかどうか確認してから動くのがいいと思う。こんな身近な場所でいつでも買えるなら尚更だ。
「そうだ。この前百均に寄ったら小物の品揃えが凄かったっんだよ。よかったらこの後行ってみないか。百均ならその後使わなくなってもそんなに後悔しないで済むだろ。無駄遣いって言うほど負担にならないよ」
「それいいですね。お試しは安い方がありがたいです」
「よし、じゃあこの後に寄ってみよう。で、ここでの買い物は済んだの?」
「はい、これにしました」
目の前に掲げたのは白ベースに黒のデザインの入ったメッシュジャケット。前面にはファスナーで開閉可能な大きなエアダクトも付いている。二人でお揃いにしたようだ。これで四千円しないとか信じられんな。
その後、俺もジャケットを見たけどサイズが無くて今回は断念。次回入荷は未定らしいからこの夏は手持ちで過ごすことになりそうだ。でももう一つの目的だったレインウェアは無事にGETできたからヨシとしよう。
ついでに余った予算で冷感シャツなる物を買ってみた。体感温度が10℃下がるという優れものだそうだから期待したいところだ。これは色違いで三音里ちゃんと翼ちゃんも買っていたからチームウェアみたいになってオヤジとしてはちょっと恥ずかしい。
あとはショートタイプのメッシュグローブ。驚く事にバイク用のグローブまで売っていた。しかもメチャ安いのにナックルガードも付いていたりする。はめ心地はちょっと疑問が残る感じだがこれなら1シーズンでダメになっても後悔はしないだろう。
今日の買い物は大満足だ。秋冬物が出たらまた覗きに来ようと笑顔で店を後にする三人であったとさ。
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