第29話 目移り
無事にヘルメットを固定し終えてから最近では珍しい手押しのドアを開けていよいよ店内へ。
おお、こりゃ凄い。
プレハブの様な安っちい四角い建物の中は所狭しと物が置かれていた。
半分が衣料品。半分がその他小物といった所だろうか。
同じような建物でも某カジュアルウェア販売店の様なお洒落な感じが全くしない。
ギッチリと商品が詰まっている感じだ。
『ほりゃ、欲しい物勝手に探せや!』って言われてるみたい。
宝探しの様な楽しいタイプのカオス感が漂っている。
女子高生’sは早速端から吟味を始めたようだ。
こりゃ時間掛かりそうだな。
衣料品も作業用がメインだろうから地味な色合いを想像してたけど蛍光色も多くて結構華やかだ。
彼女たちの邪魔しちゃ悪いから逆の端から眺めていく。
うん、確かに作業着屋さんだ。鳶職さん御用達の寅壱ブランドのニッカポッカや腿の外側に大きなポケットが付いた作業ズボンなんかが並んでる。
これはこれで好きなのだが今日の目的ではないので次の通路へ移動。
今度は上着のコーナーのようだ。
よく見かける作業用ジャケットややたらにポケットの多いベスト、職人さんが好きそうな長袖ハイネックなんかが並んでいる。
ここも違うなと次の通路へ。
おっ、それっぽいのがある。
カラフルなウィンドブレーカーやTシャツが並んでいたがそれはどうやらランニングウェアのようだ。発汗を利用した冷却効果や速乾性で優れた肌触りを示すタグがぶら下がっている。Tシャツなんかはライダースジャケットの下に着てもいいかもしれない。
デニムぽい見た目の難燃素材でできたパンツや前掛けみたいなのも並んでいる。この辺りがアウトドア向けなのだろう。
十分普段使いできそうなデザインが多いし何より安い。
えー、これで二千円しないとか三千円切るとかハズレてもいいじゃんてレベルの値段ばっかりだよ。こりゃスゲェ。
歳とってバイク乗るのは体力的にキツイ時もあるけどいい事はこういう時かな。滅茶苦茶余裕がある訳でもないけど欲しいと思った物をその時に買えるくらいにはなった。
だからこの価格帯は超危険だ。
まだお目当てのライディングウェアにもキャンプ用品にも辿り着いていないにも関わらず「いいね」がこんなに沢山。
衝動買いの嵐が吹き荒れそうな予感がする。いや予感しかしない。
その隣には極々普通に着られそうなアウターがズラリ。
キャンプ向けなのか難燃素材のタグもちらほら見かけられる。
これはもうカジュアルウェアだね。フツーに街中で着ても何ら問題ない。
作業着コンセプトどこいった。
そして目的の一つでもあるレインウェアに辿り着いた。
安っ!
まず驚いたのはその値段。五千円で選り取り見取りです。
手持ちのウェアが二十年近く前で一万以上してたから二万くらいは覚悟してたんだけど全然必要ありませんでした。物価上昇どこいった?価格破壊しかないぞ。
機能的にも対水圧は一万mmとかだし袖や裾にバイク向けの工夫が施されていて使いやすそう。
上着だけなら二千円台の商品もあるんで安過ぎで心配になるレベルだけど作りには問題なさそう。企業努力に感謝です。
しかし女子高生‘sはどこ行った?
かなり進んできたがまったく見かけないぞ。
そう思って次の通路を覗くといました。
てか最初の場所から動いていません。
これが噂に聞く女性の買い物は時間がかかるってやつなのか?
良さげな物は沢山あるけど全く動いてないってどんだけ吟味してるんだよ。
声を掛けると巻き込まれそうなんでスルーして先の通路を見てみます。
そこにあったのはキャンプ用品コーナー。
多っ!安っ!
なんだこれ?
ここ作業着屋だよな。
想像を超える品揃えでした。
最近の現場はテントで寝泊まりするのか?
俺のお気に入りの折り畳み椅子と同じようなのもある。しかも値段は〇分の一。(悲)
辛うじて『俺の椅子の方が軽いやい』とあまり意味のないところでマウントを取ってみたりする。人はそれを負け惜しみと呼ぶ。
小物も豊富で流行りのメスティンやポケットストーブなんかが小学生のお小遣いで買えそうな値段で並んでいる。
俺が道具を揃えるためにした苦労は何処に行ってしまったんだろう。
『時代が変わったんだな』と遠くを眺めてしまうのは俺だけじゃないはずだ。
レインウェアが激安だったため余った予算がキャンプ用具に変わるのが決定した瞬間だった。
この店ヤバイ!
俺の財布を空にするまで帰さないつもりなのか。(意外とスグ)
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