第23話 晩餐
陽が山陰に隠れ始める丁度いい頃合いで焚火台から覗く赤い炎がチロチロと大きくなってくる。
燃〜えろよ燃えろ〜よ♪とフランス民謡を口ずさんでしまいそうだ。
細い薪が燃えたのを確認して少し太い薪を足して後は放置。
テーブルの上のバーナーにボンベを繋いで火を点けたら五徳に小さなフライパンをセットしてチョリソーを放り込む。
粗挽きウィンナーは炒める派です。
茹でても美味しいんだけど香ばしさが好きなんです。
持って来たクッカーは大きな鍋の中に小さな鍋、フライパン、ケトルがスタッキングされている物だ。
ケトルの中にはカトラリーやナイフなどの小物や洗い物用のスポンジや洗剤、調味料を小分けにしたボトルを入れてできるだけ隙間ができないようにしている。
煮物、炒め物はもちろんの事、炊飯も問題なく熟せる。
これと火があれば大抵の料理はできる。
ダッジオーブン?
重くて荷物になるだけでしょ。
キャンツーには向きません。
シチューやカレーは某コンビニの金のシリーズで十分です。
バーナーも十センチ角の箱に納まるコンパクトな物。
こいつにCB缶を繋いで使います。
CB缶は普通のカセットコンロなんかに使う細長いガス缶だ。
キャンプは緑色で寸詰まりなOD缶のイメージがあるけど本気で山登りする訳でもないのでCB缶で十分だと思う。
冷えると出力が不安定になったりするらしいけどそもそも真冬にキャンプする程のガチ勢じゃないし、冷えちゃったら使い捨てカイロでも貼っておけば結構使える。
引火には要注意だけど俺のバーナーは直付けじゃなくてホース接続だからその辺も大丈夫でしょ。
何よりもコンビニで補給できる手軽さがありがたいです。
てなとこで調理は大抵バーナーです。
焚火台でも鍋はかけられるけど、まず火力の調整が難しいし煤が…。
炭を上手に使って熾火にできれば多少はいいんだけどそれでもガスよりは汚れます。
後片付けが面倒なのは嫌いです。
そんな御託を並べてるうちにチョリソーがいい色に焼けてきました。
そこで遂に真打登場!
『カシュ』
プルタブを開けてまずは一口。
「くぅ〜美味ぇ」
思わず独り言が口を突いてしまう至福の一瞬です。
どこから見てもオッサンだな。
『パキュ』
火を止めたコンロに置いたままのフライパンからチョリソーを取り一口齧る。
皮が破れる音と共に溶けた脂が飛び散ります。熱っ!
結論。焼きたては何でも美味い。(至言)
ウィンナーを端に寄せてフライパンの空いたスペースにコロッケと唐揚げを乗せて余熱で温めてみる。
マカロニサラダもラップを外してテーブルの上へ。
さあ、宴の始まりだ。
スマホから流れるラジオDJの声を聴きながら暮れていく空をボーと眺める。
この時間になればもうキャンパーは増えないだろう。
川のせせらぎに虫の声。
そして鮮やかな炎を上げる焚火からは時折『パチパチ』と薪が爆ぜる音が聞こえる。
すっかり夜の帳が降りた川辺の明かりは電球色の光を放っているテーブル上のLEDランタンと焚火の揺らめく炎だけ。
夜空に瞬く星がよく見える。
滝の傍のテントからは時折女性の笑い声が風に乗って微かに聞こえてくる。
あちらも酒を飲んでいるのなら興が乗ってくる頃合いだ。
でもこの程度なら全然許容範囲です。
それよりあの場所じゃ夜中は滝の音がうるさそうだけど大丈夫かな?
飲んで寝ちゃえば気にならないか。
そんな益体もない事を考えながら煙草の煙を燻らせながら焚火に追加の薪を焚べてからビールをグビリ。
今日日飲み屋も禁煙だったりするから飲みながら吸えるのはありがたい。
しかもこれだけ空いていれば周りに気を使う事もなく好きなように吸える。
控えめに言っても最高でしょう。
九時を過ぎる頃になれば酒も肴もネタ切れだ。
〆に冷凍なべ焼きうどんをコンロにかけて腹を満たし本日の宴は終了です。
ゴミを袋に纏めてテントの前室へ。
外に出しとくと野良猫に荒らされたりするから酔っていてもキチンとしましょう。
薪が燃え尽きた焚火台は朝まで放置かな。
灰の処分は明日の朝だな。
ギアは出しっぱなしだと盗まれたりすることもあるらしいので片付けられる物はテントの中へ。
念のため鵞鳥にもフロントブレーキにディスクロックかけてあります。
ロールアップしてあった入口のフライシートを降ろしたら靴を脱いでインナーテントに入ってからフライシートとインナーテントのファスナーを閉める。
ゴソゴソとスエットに着替えたらインフレーターマットの上の寝袋に潜り込んで本日終了です。
浮世から離れた贅沢な時間だった。
元気に走った鵞鳥に感謝して今日は気分よく眠りに就きましょう。
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