第21話 醍醐味

 昼飯は暖簾がいい具合に色褪せた国道沿いの町中華です。


 別に俺のゴーストが囁いたわけではなく、信号で止まった拍子に店先に停められた古いカブがとてもキレイに手入れされているように見えたからだ。


 カブを大事にする人に悪い人はいない。(思い込み)


 丁度昼時だったのでカブの横に鵞鳥を停めて暖簾をくぐる。


 スマホで探せばいくらでも美味しい店は探せるけど、その手の店は行列してる事も珍しくない。

 行列に並んでまで食べたいものなんてそんなに多くは無いはずなのに何故かみんな並びたがるよね。

 こんな店に通りがかりでふらりと立ち寄るのも旅の醍醐味でしょ。


「いらっしゃいませ。空いてるとこにどうぞ」


 明るいおばちゃんの声が迎えてくれた。

 カウンターは無いようなのでお一人様だが四人掛けのテーブル席に就く。


 花柄の化粧天板のテーブルと緑のビニールカバーのうっすいクッションの椅子。

 もちろんテーブルも椅子もフレームは丸パイプです。

 天板の化粧板は角が反って浮いてるし、座面はちょっと破れて黄色いスポンジが覗いてます。


 これこれ。この昭和レトロが好きなんですよ。


 でも決して汚い訳じゃなくテーブルや床が油でギトギトなんてことは無いし、何より厨房の壁のステンレスや換気扇のフードがピカピカですよ。

 大事にしっかり手入をしている。


「いい仕事してますね〜」と思わず口走ってしまいそうだ。


 出てきた炒飯も刻んだナルトと添えられた紅ショウガがいい味だしてます。

 ここは当たりだと野菜炒めを追加注文するくらいテンション爆上げです。


 美味い飯に満足したら次の目的地は国道を外れてから出てくる地元のローカルスーパー。

 今晩の食材と酒を仕入れましょう。


 目的は手作り感満載の総菜です。

 全国展開のチェーン店の方が品数も多いし安いんだけどどこでも買えるからね。

 料理作ってもいいんだけど材料とか調味料とか揃えると結構嵩張るし後片付けも面倒でしょ。


 家で作った方が美味しく作れると言うと『外で食べるのが美味いんだよ』と言う人がいるけどそれなら総菜だって同じじゃね?

 という訳でコロッケ、唐揚げ、マカロニサラダ、チョリソー、冷凍なべ焼きうどん、水2リットル、缶ビール3本をお買い上げ。

  

 さあ後はキャンプ場までノンストップだと大満足で店を出たら新兵器のスマホホルダーにナビを起動したスマホをセット。


 古いキャンプ場だからホントに山の中なんだよね。

 だから道も細くて分かり難い。

 一本間違うと何処に行くか分らん。


 今回はあえて人気の無さそうな古いキャンプ場を選んでみた。

 小綺麗なキャンプ場には家族連れや俄かのパリピが多くてマナーが酷い事になってるらしい。(俺も十分俄かなんだが)

 俺は静かに焚き火を眺めながらビール飲みたいだけだからなるべく人が少なそうな所にしましたよ。

 設備なんか水道とトイレだけあれば十分だし。


 そして何より………安い。


 綺麗に区画整備されて設備が整ったキャンプ場はそれなりにいい値段だ。

 そんなに払うんなら焚火を諦めて駅前のビジネスホテルにでも泊まるわ。

 寝床も食事も自分で準備して高い金払うのは私には理解できません。

 ショバ代は安いが最強です。


 予約が必要ないとこも良かった。

 ツーリングは天候で予定が左右される。

 雨の中キャンプする程強者じゃないですから。


 ナビに従って山に続く小道に進入。


 舗装はガタガタで穴が空いてたりするし、横の岩肌からは水が滲みだしてきていて突然水溜りが現れるようなトリッキーな細い道を全くクッション性のないシートから尻を浮かせ注意しながら鵞鳥を進める。


 そんな道を五分程進むと小さな集落に出た。

 更に進みながら橋の横にあるという雑貨屋を探す。


 その店がキャンプ場の受付らしいのだ。

 まあ、地主が遊休地を軽く整備してキャンプ場として使えるように整備したんだろう。


 見つけたそれらしい店の前に鵞鳥を停めて誰もいない店内に声を掛ける。


「すいませーん。キャンプ場使いたいんですけどー」

「あーはいはい」


 奥からすぐにおばちゃんが出てきた。


「はいはい、じゃあこれに名前と連絡先書いてね」


 そういってボールペンで縦線書いただけの普通のコクヨのノートを差し出されたので言われるままに書き書き。


「バイク一台で一人ね。じゃあ五百円」


 料金を払うと青い荷物札を渡された。バイクの見えるとこに付けとくらしい。


「先に二組入ってるけど空いてる場所ならどこでもいいからね。ここは六時まで開いてるから何かあったら聞いてちょうだい。あと流し場の横にある廃材は自由に使っていいからね。帰る時にはまた声かけてね」


 ニコニコとした人のよさそうなおばちゃんと世間話しながら受付終了。

 あれは駄目、これもダメと口煩い事は何もなく、それだけでここが普段から平和で良識のある人達が使ってるのが分かる。


 しつこいほど注意事項の説明された挙句に罰金なんて話が出るようなとこは逆に考えればそこまでしなきゃならない理由がある事が多い。

 つまり普段から問題行動を起こす輩がそれだけ集まりやすいって事だ。


 もちろん我関せずで放置してる無責任オーナーもいるけどこのおばちゃんは違うだろう。


 うん、ここも当たりかな。







 

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