第15話 連れ

 ソフトクリームを舐めながら駐輪場に移動。

 お互いのバイクを眺める。


 二台とも精悍ではあるんだけど顔つきがキツイ。

 まるで悪役の宇宙人みたいだ。

 でもこれが今の流行りなんだろう。


 俺がバイクを楽しんでた頃にはネイキッドなら鵞鳥みたいな丸目一灯か角目。

 社外品でバグズなんて小径の丸目二灯もあったな。

 フルカウルなら中央にデカイ異形ヘッドランプが鎮座してたりしたけど今はスッキリしたもんだ。

 LEDに変わったお陰でデザインの自由度が上がったんだろう。

 でも四つ目の妖怪みたいだと思ってしまうのは俺だけだろうか。

 このまま変形して人型になりそうだ。(ザボーガー好き。板尾版は除く)


「おっと、これはひょっとして」


 カウルに半分隠れてるけど不自然に太いシフトペダルのリンケージが目に付いた。


「あっ、分かります?お店の人に勧められて付けたオプションなんです。クイックシフターって言うんですよ。クラッチ使わないでいいから凄い楽です」


 最近の250はこんな物まで付いてるんかい。

 リッターSSには付いてるのもあるのは知っていたけど。

 オプションとはいえ設定があることに驚いた。

 その昔、VT250に油圧クラッチが奢られ、当時の人達が驚いたという話を思い出す。

 でも初心者の女子高生が乗るバイクにこの装備いるか?

 バイク屋さんも商売だからとも思うがもう少し考えてあげて欲しいとこだ。


 新しい物が付いてるだけかと思ったら古い物が無くなってた。

 アクセルグリップの横に燦然と輝く『THROTTLE-BY-WIRE』の白文字。

 アクセルワイヤーが無いじゃありませんか。

 完全に電子制御なんかい。

 ホンダさんは新しいの好きだよねホントに。

 もう私には付いていけそうにありません。


「へぇー最近の250は凄いんだな」

「豊田さんのはいくつなんですか?」

「これは350」

「あっホントだ。ナンバーに緑の枠がある。私達のより大きいんだ。見た目は細いのに」

「そうだね。単気筒だからかな」

「単気筒?」

「そう、単気筒。シリンダーが一つしかないんだよ。君達のは並列二気筒だからその分エンジンの幅が大きくなっちゃうんだよ」

「そうなんですね。機械の事はよく分からなくて」

「乗り始めたばかりならこれから覚えてけばいいさ。自分の乗ってるものの仕組みが分かるともっと楽しくなるよ。でも最近のはあんまり弄れないかもしれないけどね」

「そうなんですか?」

「ほら、今のはみんなコンピューター制御だから昔みたいに適当にいじると大変な事になるからね」

「マフラーとかも格好が全然違いますもんね。何となく分かる気がします」


 食べ終わったソフトクリームの紙を丸めてゴミ箱へ捨てる。


「じゃあ、そろそろ行こうか。暗くなる前に高田まで戻った方がいいだろ?」

「はい。そのつもりでしたから」

「ああ、一緒に走るけど無理にペースは上げないようにね。他人のペースで走ると事故るから離れても焦らずマイペースで行こう。島田の国道の交差点の角にコンビニがあったはずだから先に着いた人はそこで後続を待とう」

「はい、頑張ります」

「いや、頑張っちゃダメだから。マイペースだよマイペース。じゃあ出発しよう」


『キュルルボットットットットッ』


 俺は再び鵞鳥のエンジンを始動させた。





 しかし妙な事になったもんだ。

 俺が女子高生とツーリングとか。


 振動でブレるサイドミラーにはこっちの肩が凝りそうなくらい緊張している二台が映っている。

 この先に少し峠道があるはずだけど大丈夫かなと不安になる。


 翼ちゃんはバーハンドルだからまだマシなんだが三音里ちゃんは中々きつそうだ。

 手で上体を支えてるみたいで肩に力が入り過ぎてる感じだ。

 いっその事タンクの上に伏せちゃえばいいのにと思う。


 もうちょっと行ったら一度停まるか。

 このスピードは俺が無理だ。

 低速で倒せないバイクをハンドルで曲げるのは結構難しいもんだ。


 上り坂の手前でウィンカーを点けて路肩に寄せる。


「この先ちょっとスピード出すから、さっき言ったみたいに無理に付いてこなくていいからね。あと三音里ちゃん、もう少しニーグリップをしっかりして腰と背中で上体を支えると楽になると思うよ。ハンドルに体重かけて腕を突っ張ってると曲がりにくいし疲れるからね」

「はい、頑張ります」

「ハハハ、頑張るともっと硬くなっちゃうから楽に行こう」


 右手を振ってバイクに戻る。

 後方を確認して本線に復帰したら六千回転で繋いでいく。

 最初のコーナー手前で軽くブレーキを入れてシフトダウン。

 倒し込んだら半クラッチとアクセルで回転数を調整しながらリアにトラクションを掛けていき、出口が見えたら一気にアクセルを開ける。


 おうっ、いい感じだ。

 上り坂を苦にする事もなく駆け上がっていく。

 振動も収まって来た気がする。

 オイルが馴染んで柔らかくなった感じかな。

 慣れただけかもしれないけど。

 六千オーバー挑戦してみるか。


『ヴィィィィン』


 たは。

 やっぱりサージングと勘違いしそうな振動が来ましたよ。

 まだ早かったかも。

 六千以下でもそこそこ楽しいから我慢しましょ。





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