第14話 出会い
『カチャ、シュボッ、カチ』
長年使い込んだジッポで煙草に火を点ける。
大きく吸い込んでから改めて駐輪場を眺める。
鵞鳥の右横に二台のバイクが増えていた。
乗り手は若い女の子の様だった。
その二人にライムグリーンの革ジャケットを着た腹の出たオッサンが何か話しかけているようだ。
ああ、俺も立派なオッサンか。
どうやら先に停めてあった大型車のオーナーの様だ。
女の子は両手を体の前で振りながら断りの姿勢を示しているのだがオヤジが全然引き下がらない。
バイクに戻るにはあの中を通るしかない。
面倒は勘弁して欲しいもんだ。
仕方なく二本目に火を点ける。
コーヒーをチビチビ飲みながら二本目も吸い終わったが終わる気配が見えない。
女の子たちもあんなオヤジ放っておいてさっさと店に入っちゃえばいいのに。
仕方がないと諦めてバイクへと近づいていく。
「どうした?何か揉めてるかい?」
「この人が一緒に走らないかって…。断ってるんですけど…」
前で話をしていた女の子が答えてくれた。
「だそうだ。誰と走るかは押し付けるもんじゃない。あんたもそう思ないかい?もう暖機も十分だろ。ガソリンが勿体ないし連れが待ってるぜ」
男の後ろにはアイドリングしてる大型車と出発準備が整った連れの二人が既にバイクに跨って男を眺めていた。
「チッ、余計な口挟みやがって」
そう捨て台詞を吐いてから渋々ヘルメットを付けて盛大に排気音を響かせながら駐車場を出ていくのを眺める。
「あ、ありがとうございました」
前にいた女の子にお礼を言われてしまった。
「時々あんなのもいるから気を付けた方がいいよ。困ったら大声で助け呼んじゃいな」
「私達、初めてのツーリングでどうしたらいいのか分からなくて…。ホントに助かりました」
『キュルルボットトトト』
まだ温もりが残っているエンジンはセル一発でキレイにかかった。
「綺麗な色のバイクですね。これ何ていうバイクなんですか?」
「ありがとう。スズキのグースって言うんだ。俺も乗り始めたばっかりなんだけどね。古いんだけどのんびり走るにはいいバイクかな」
彼女たちのバイクを見るとホンダとヤマハの今風なデザインの250ccロードスポーツモデルだった。
「へ―国産なんですか。何か外国製みたい」
「君たちもいいの乗ってるね。大事に乗ってあげな」
「はい、買ったばかりなんで今日は二人でナラシで走ってるんです」
そう言うと後ろの女の子に向き直って二言三言会話を交わす。
「あのー今日はこの後どこに行くんですか?」
「ん?特に決めてないけど島田抜けて若杉に向かう感じかな」
「!私達高田から来たんです。良かったら付いていってもいいですか?」
高田は若杉の隣町だ。
通っても大きくルートが変わる事はない。
「俺は別に構わないけど女の子が喜びそうなとこには寄らないぞ。たぶんひたすら走ってるだけだけどいいの?」
「はい。またさっきみたいな人に絡まれても困るし、私達も長距離走るつもりで来たんでどこに寄る予定も無いんです。ここもトイレ休憩で寄っただけだし。良かったら宜しくお願いします」
頭を下げられちゃあ無下に断る訳にもいかない。
旅は道連れ世は情け、袖振り合うも他生の縁てとこか。
それにこの先こんな若い子にお願いされる事なんてないだろうな。
「んー、分かったよ。ただ走るだけで良ければ高田まで一緒に行こう」
「ホントですか!ありがとうございます」
「じゃあトイレ行ってきなよ。まだ行けてないだろ?」
「はっ、そうだった。ちょっとだけ行ってきます。つーちゃん、急ごう」
二人は小走りでトイレのある建物へと向かって行った。
仕方がないので俺は再びエンジンを切って喫煙所へ。
この休憩三本目の煙草を吸いながらノンビリと待つ。
吸い終えてバイクの横に戻ってボーっと山を眺めてると横から突然ソフトクリームが突き出された。
「おっと」
「お待たせしてすいません。これさっきのお礼です」
「おお、ありがと。お金は払うよ」
「いいんです。お礼なんですから」
そう言いながら二人は自分たちのソフトクリームを舐めている。
若い女の子にソフトクリームは似合うね。(オッサン脳)
こんなとこで押し問答しても始まらないので有難く頂くことにする。
次の休憩で何かお返ししてあげよう。
「そう?じゃあ有難くいただくよ。ありがとう」
「いえいえ、こちらこそ」
ソフトクリームを食べながら改めて自己紹介してくれた。
元気な子が
大人しい子が翼ちゃん。愛車はヤマハMT-25。
二人とも高校生で同級生だそうだ。
学校は元々バイク通学が許可されていてスクーターで通っていたらしいが、ツーリングに憧れて普通二輪免許を一緒にとって初めての二人旅に出たのが今日だそうだ。
初回であのオッサンの相手じゃバイクを嫌いにならないといいけど。
しかし名前に三つの音を持つ
「俺は豊田慎二。久しぶりにバイクに乗ったオッサンだ」
あっ、俺もちょっとややこしかった。
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