第13話 昼飯
久しぶりのバイクが楽しくて休みも取らず峠道の行ったり来たりを繰り返した五本目の登り。
最後のコーナーをかなりいい感じでクリアできた。
飛ばして攻める感じじゃなくて、よりスムーズなコーナリングを目指す。
立ち上がりのイメージがピタッとはまった感じ。
(くぅー気持ちいいー)
それを潮時とみてそのまま公園の駐車場に入った。
バイクから降りると膝が少し笑ってる。
完全に
体の状態を確認しながら事務所脇の自販機で本日二本目の缶コーヒー。
バイクに乗ってるとホントに缶コーヒーばっかり飲んでる気がする。
陽向に座り込んで煙草に火を点ける。
10時前の日差しは十分温かく、日向でジッとしてると暑いくらいだ。
革ジャンの前を開けてネックウォーマーを外す。
(さて、この後はどうしようかな)
手元から立ち昇る紫煙を見ながら痺れた頭で考える。
今日の目的はだいぶ達成できた。
このまま来た道を戻ってもいいけどそれじゃあ勿体ないか。
そう言えばこの先に新しい道の駅が出来てたっけ。
そこで昼めし食ってから決めるか。
ハッキリとした目的地のあるツーリングじゃない。
縛りは日帰りという事だけ。
風の向くまま、気の向くまま。
これが一番の贅沢だと思う。
そうと決まれば動きましょう。
日曜の道の駅の混み方は半端じゃない。
こんな田舎じゃ食事できる場所も限られるから仕方のない事だ。
綺麗なトイレも有難い。
今から動けば11時前には入れるはずだから食堂が混む前に昼飯にありつけるだろう。食べてから改めてゆっくりしよう。
『キュルボッブイーントットットッ』
しっかりと温まりオイルも回ったであろうエンジンは軽いセル一発で火が入った。
一度煽った後は1400ちょいで安定してる。
快適、快適。
個人的にはキックの方が好きだけどセルはホントに楽だね。
あっ、誰もいないし場所もあるから押し掛けしてみようかな。
ヘルメットとグローブの準備を済ませると一度エンジンを切る。
そのままクラッチを握り二速に入れてクラッチを繋いだら軽く後ろに車体を引っ張る。
ちょっと抵抗があるところがたぶん上死点。
メインスイッチをONにしたらクラッチを握ってバイクを押し出す。
5メートル程押して勢いが付いたらステップに立つようにバイクに跨りリアタイヤを地面に押し付けるイメージでシートに尻を落とす。
その瞬間に半クラッチ。
『ズッ、ボボ』
少しタイヤがロックして引きずった感覚の後に火が入る。
すかさずクラッチを切ってアクセルを煽る。
『ブイーントトトト』
無事成功!
まあ、これだけしっかり温まってれば一歩で掛かりそうだけどね。
そのままの勢いで目の前の県道にゆっくりと合流した。
さあ飯食いに行くぞー。
鵞鳥はダム湖沿いの道をギアを上げながらゆっくりと加速していく。
県道から再び国道に合流して順調に進んで行く。
予定通り11時前に着いた道の駅は結構な混み具合だった。
駐車場も既に八割くらいは埋まっている。
駐車スペースの端にある二輪車用スペースにゆっくりと進む。
既にフルカウルの大型が三台停まっている。
並べて停めると鵞鳥のスリムさ(貧相ともいう)が際立って見える。
だけどその美しさは決して引けを取る物じゃない。
同じバイクであっても求める物が全然違うのだから気にする事は無い。
良さは違いがあって当然なのだ。
しかしこれが30年前のデザインとは恐れ入る。
中もそこそこ賑わっていたが食堂では無事に席を確保できた。
食事中のテーブルには釜めしセットや天ぷら定食といった見た目も豪勢なものが多い。
だけど俺はメニューをちょろっと眺めてから
「カツカレー1つお願いします」
「はい、カツカレーですね。少々お待ちください」
水を出してくれたお姉さんに悩むことなく注文した。
俺の出先の飯はだいたいカレー、かつ丼、炒飯のどれかだ。
どこの食堂でも置いてあるメニューだしハズレがほぼない。
カレーもかつ丼も意外なほど味に差があり楽しめるし。
何より俺は好き嫌いが多いんです。
名物なんて山なら山菜だし海なら刺身だし。
両方苦手です。
山菜は茸が食べられないし、刺身は美味いと感じた事がない。
うん、カレーはやっぱり最高です。
ここのカレーは黒っぽくマイルドな味わいのお洒落な西欧風カレーでした。
カツもスプーンで切れる程よい厚みと柔らかさで揚げたてのアツアツ。
1,100円とちょっとお高めなのは観光客用ですからしょうがないでしょう。
ちょっとご飯が少な目だったから次は大盛りにしよと思う程度には美味しかった。
食後にはまったりと一服したくなるけど、このご時世は店内で喫煙なんて望むだけ無駄なんでさっさと喫煙所に移動します。
本日三本目の缶コーヒーを買ってから喫煙所を目指す。
その途中で喫煙所の先にある駐輪場の人影が目に留まった。
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