第10話 ドナドナ
土曜の昼前に本田さんがハイエースで鵞鳥の引き取りに寄ってくれた。
実車を見ながら状況を説明して、登録の必要書類と一緒にチェーンとタイヤを渡す。
チェーンは高砂のゴールドチェーン。
あの金色がカッコいいんだ。
タイヤは値段に負けてIRCのRX-02を選んでみた。
今履いてるのがTT-900なので同じでもいいかと思ったが一本3000円安の魅力に勝てませんでした。
TT-900って今でもあるんだとちょっと驚いた。
昔好きだったプロファイヤーは横浜ゴムがバイクタイヤから撤退していてもう無いようだ。
ちょっと調べたらお隣の国のメーカーが引き継いだらしいが、隣国製は車のタイヤで痛い目をみたことがあるので選択肢から外しました。
パターンは似てても多分別物になっている事でしょう。
IRCは初のメーカーだけど評判も良さそうなんで期待したい。
RX-02という名前も格好良くて気に入りました。(完全ヲタ脳)
車検の制動テストの兼ね合いもあるからキャリパーのオーバーホールもお願いした。パットは大丈夫そうなんで再使用で。
フロントはどうせフォークばらす時に外すし、リアはタイヤ交換しなきゃ外れないし。
ハイエースの荷台でタイダウンロープで固定された姿を見ると、たった二週間弄っただけのバイクでもちょっと寂しい気分になる。
頭の中でドナドナがエンドレスで流れてる中、遠ざかっていく車を見送った。
来週には帰ってくるんだけどね。
さて、この週末はお化粧の準備でもしましょう。
最近のスズキ車の流行りは青ベースのカウルにデカく ”SUZUKI” の白文字と黄色ベースに ”ECSTAR” のロゴらしい。
幸いというかうちの子は綺麗な青だ。
ググってみたらネイキッドの鵞鳥でも良さげなのがあったので真似してみる事にした。
塗装は手間がかかるのでお手軽なカッティングシートでステッカーチューンを目指してみる。
幸い職場にローランドのカッティングマシーンがあるのでシートだけ購入すれば加工が出来る。
ちゃっかり課長に断って借りてきました。
性能は屋根の開く変態車用で実証済だったりする。
加工データは専用ソフトで簡単に作れるのでお手軽です。
PCのフォントで似たようなのが作れると思ったのだがそうは問屋が卸さない。
仕方がないのでネットからロゴを幾つかコピーしてソフトに取り込んで修正していく。
二時間ほどデータをいじって満足したら印刷のサイズに調整して準備完了。
白のシートにタンク用の ”SUZUKI” のデカい奴を一枚と、タンクの左右に貼るエンブレム用の ”S” を二枚。
黄色のシートでシートカウルのベースになる三角を2枚とタンク用の5mm幅のラインを一本。
黒のシートに ”ECSTAR” のロゴを左右各一枚の2枚。
カッティングマシンから吐き出されたシートの余白を剥がしてから透明な転写シートを貼り付ければ完成だ。
ステッカーを貼った車体を想像してついニヤニヤしてしまった。
鵞鳥よ早く帰ってこーい。
指折り数えて待つ月日の何と長い事か。
いや、たったの一週間だけどね。
本田さんから電話を貰ってから庭で鵞鳥の帰還を今や遅しと首が伸びそうになって待っている土曜の昼だ。
うーん、ここまで待ち遠しくなるとは予想外だ。
思った以上に愛着を感じてしまっているらしい。
到着したハイエースから姿を現した鵞鳥はちゃんとバイクだった。
「何言ってんだお前」と思うかもしれないが先週はまだ走れなったんだからバイクじゃなかったんだよ。
外見は大きく変わらないはずなのにシャリシャリと軽快なチェーンの音と共に軽く押すだけで動いているそれは別物の雰囲気を纏っているんだよ。
車庫の前でスタンドを立ててからエンジンをかけてみる。
『キュルキュルボボットトトブイーントットットットッ』
アイドリングは綺麗に1400回転で安定している。
予定外の整備は殆ど必要なく車検も問題なかったそうだ。
ちょっとシフトが渋いらしいが乗っているうちに馴染んで来るだろう。
まずは給油してテストランだな。
明日の天気予報は晴れ。
さて、何処まで出かけようかな。
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