第6話 鼓動

 一夜明けて今日もいい天気だ。


 タンク振ったりしたせいか少し筋肉痛が。

 うむ、歳は取りたくないものじゃな。


 今日は何とかエンジンの火入れを目指そう。

 

 他は部品を交換すればいいんだろうけどエンジンに手を入れる気はない。

 手間もコストもかかり過ぎる。

 恐らく手ごろな中古車買った方が無難でしょ。


 元々、拘って手に入れた物でもないし、必要に迫られた物でもない。

 親父さんも捨てていいって言ってたからね。




 さて、じゃあパーツクリーナー噴きまくり祭から始めましょう。


 まずはキャブのボディー。


 穴という穴にノズルを突っ込み、無心となって噴き続けます。

 バタフライもバラそうかと思ったけど動きはスムーズだったんで取り敢えず分解は見送りました。

 ダイアフラムも見た目は大丈夫そう。


 一通り満足したら再びキャブクリーナーを噴いて次はジェット。


 番手を見ると純正の様だ。

 どこかの青い悪魔のようにmore powerなど求めないので純正一択です。


 メーカー様が手間暇かけて導き出した設定を変えるのはリスクでしょ。

 一つ弄ったら次々に変える必要があってキリがありません。

 というか年寄りに無理は禁物です


 公道最速だのサーキットのスピードスターを目指す訳もなく、走れればいいんだから。


 一晩浸け込んだ部品たちはそこそこ綺麗になりました。


 ドロドロだったフロートチャンバーもスッキリと仕上がってます。

 うん、フロートの黄ばみはどうしようもないね。


 絶対これ漏れそうだよな〜とか思いながらジェットを戻したフロートチャンバーを組みつける。


 パイロットスクリューは取り敢えず1と2分の1戻しで。

 アングルドライバーなんてないけど何とかなるでしょ。


 そして組み上がったキャブをエンジンへ。


 ワイヤー関係もインジェクター使って注油してから繋ぎ直す。


 次はエンジンオイル。


 昨日、作業を終えてからわざわざ県庁所在地まで出かけて色々買い込んできました。


 まずはフィルター。

 社外品だけど問題なく嵌りました。親切に大小二つのOリングも付いていたので交換。

 オイルは安っすい鉱物オイルで十分。どうせすぐに交換だ。

 規定量は1900ccらしいがそんなに入らなかった。

 仕方がないので給油口ギリギリまで入れて蓋をした。エンジンがかかってオイルが回れば減るだろうから継ぎ足せばいいだろう。

 ドライサンプだのオイルクーラーだのと分からない事が多すぎるな。


 そしてちょっと贅沢したのが潤滑スプレー。

 さすがに5-56じゃ拙いだろうと思って購入したのだが一本三千円近くした。


 結局、諭吉様が旅立っていった。グスン。


 プラグホールからシュッと一噴き。

 ホントならクランクを手で回しながら馴染ませるんだろうけどクランクのカバーが開きませんでした。

 既にクランキングさせてる事もあり今さら感が半端ないのでこのまま行く事にしましたよ。

 ドライスタートがエンジンを傷めることぐらいしか知らないが、オイルが回るまで少しでも抵抗を減らせればいいや程度のやっつけです。


 開かないカバーはタペット調整が必要になった時にでも考えよう。


 プラグもワイヤーブラシで磨いたら綺麗になったからこれを装着。

 替えは購入済みなのでダメそうな時には交換ですね。

 純正指定は多極プラグと言う物らしく意外と高かった。NSやRZは一本三百円くらいだった気がする。

 どうせ高いならイリジウムも検討しよう。

 走れるようになったらホットワイヤーでも付けてみるかな。


 エアクリーナーは汎用の四角いスポンジをチョキチョキとボックスの形に合わせて加工しました。


 吸気効率?


 細けぇ事はいいんだよ。今は気にしない、気にしない。


 フューエルコックにペットボトルにシリコンチューブを付けただけのインチキタンクを繋ぐ。


 再びジャンプスターターを繋いで運命の一瞬だ。


『キュルキュルキュル…キュルキュルキュル…キュルキュルボッボッ』


 おっ、来るか?


 チョークを半分引いてみる。


『キュルキュルボボッボボ、キュルキュルボボッボボボボトットットドドーーー!!!』


 キター!!!!!


 更にチョークを全開にして回転を上げる。


『ドドドドドーーー』


 タコメーターが三千回転手前であることを教えてくれる。


 うん、うん。タコメーターも生きてるのね。ありがたや、ありがたや。


 一分ほどでチョークを半分程戻して更に三分ほど待つ。


 クランクケースの温もりを確認して完全にチョークを閉じた。


 回転は千を切るくらいで落ち着いているので、アイドルワイヤーを捻って千三百くらいまで上げてみてからアクセルを煽ってみる。


『ブイン、ブイン、ブイーン、トットットットッ』


 さすが単気筒。音がショボい。レスポンスも悪い。


 エンジン掛けたままライト系を点検。


 ウィンカー左右OK。だけどプッシュキャンセルがイマイチ。

 スイッチ分解してシリコンスプレーでも噴いておけばいいか。


『ビッ』


 クラクションも鳴るようです。


 ヘッドライトハイビームOK。

 今時は珍しくなった赤みがかった光が何ともいえないレトロ感を醸し出してます。

 どこかに車用のホワイトバルブがあったような気が。あとで探してみよ。

 光軸調整は車検の時だな。


 ブレーキランプOK。ん、テールランプは一つ切れてる模様。

 メーターのランプはショボくて分からん。


 だがしかし、これで先に進める。


 最大の山場は乗り越えたな。


 後は財布の中身との勝負だな。


 それが一番キツイかも(泣)





 


 


 



 

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