第3話 その名は

 部屋に戻って知識の海に御座す神にお伺いを立てる。


 グーグル先生に「スズキ NK42A」と入力しただけ。


 そんな簡単な事で大抵の事を知ることが出来る。ありがたや、ありがたや。



 バイクの名前がついに判明した。


 その名は「グース350」


 正体は1991年にスズキから販売されたシングルスポーツ。

 マン島の有名なコーナーにちなんで名付けられ、2ストレーサーレプリカ全盛の時代に風穴を開けようとメーカーの期待を一身に背負い送り出されたようだ。


 そして見事に玉砕したらしい。10年近く販売した様だけど累計で6000台くらいしか売れなかったようだ。

 因みに人気のレプリカは年間で二万台以上売れたそうです。


 宣伝文句は「直線は退屈だ」


 コーナリングの楽しさを強調してるんだろうけど、直線での非力な加速能力を現わしてるような気もする。

 2スト250ccで45馬力、4スト400ccで60馬力近いパワーに慣れた人達には33馬力はいかにも物足りなかった事だろう。

 2ストの尻を蹴とばすような加速に慣れたら4ストシングルの直線は確かに退屈そうだ。

 オフ車のDRと共通のベースエンジンでオンのレプリカに挑むのは無謀を通り越す暴挙だと素人の俺でも思うんだが。


 ラジエターが見当たらないので空冷かと思っていたら、なんと油冷だった。

 しかもドライサンプ。

 エンジンの下の方にオイルクーラーが付いているらしいが、気が付かなかった。スズキがご自慢の油冷を採用するくらいだから当時の設計者の思い入れの強さとメーカーの高い期待が伺える。


 兄弟車で250ccが有るらしいが、目立つ違いは排気量とフロントフォークが正立になっているくらいで殆ど同じような造りらしい。

 こちらは更に売れなくて3年位で消えたようだ。


 名前の由来のコーナーは鴈の首グースネックというらしいから「グース=鴈」なんだろうけど、販売でコケてるし、今のまともに動かない状況から、庭先をヨタヨタ歩くもう一つのグースを連想する。

 あいつにはそっちの方が相応しいだろう。


 よし、あいつは今日から鵞鳥ガチョウだ。


 こうして何となく流されるまま俺と鵞鳥グースの付き合いが始まった。

 

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