第2話 つくづく

 目の前のバイクを改めて観る。


 つくづく変なバイクだ。


 タンクとシートカウルは勿論、丸パイプのフレームやスイングアームまで綺麗な青色。

 シートはレーサーのようなシングルシート風。

 後ろには座布団のような小さなシートが付いてるから改造した訳じゃなさそうだ。


 フロントブレーキはシングルディスクで強力な制動は期待できないがフロントフォークは倒立式で走る気満々。

 そしてトップブリッジ下で腰が痛くなりそうな前傾姿勢を要求する位置に固定されたセパレートバンドル。

 でもエンジンは単気筒。


 うん、変だ。


 何てちぐはぐな構成だ。


 倒立式のフォークで剛性を上げるならダブルディスクでの強烈なストッピングパワーが相応しいだろう。

 強力な制動力を必要とするなら高出力なエンジンとセットになるのが普通だ。


 でもこいつは、そんな高価で高性能な部品を驕りながら、エンジンは出力やレスポンスに劣るとされる単気筒。

 俺が普段乗ってるカブと同じだ。

 一般的に単気筒は低回転・低速度域の太いトルクが魅力で採用される事が多いエンジンだ。

 高回転による高出力を求めるようなスポーツバイクで選ばれるエンジンじゃない。


 でもこのスタイル。

 サーキットでも走れそうなシングルシートにはクッション性能などまるっきり期待でき無さそうな厚く硬いゴムのようなシート。

 そして見た目はスパルタンだが絶対腰が痛くなるであろうセパハン。

 長距離のツーリングには全く向かなさそうだ。


 いや、この単気筒エンジンがものすごい高性能で多気筒エンジンに引けを取らない物のである可能性もある。

 そうなった時にこのスタイルが生きてくるかも。でも、ブレーキはシングルなんだよねぇ。

 期待するには無理があるよな。


 そもそもこれ何てバイクなんだ?


 燃料タンク横のメーカー名がある場所には何もない。

 見える部分で探すと白い錆に埋もれるようにヘッドライトのステーに「SUZUKI」とアルファベットが刻まれていた。


 どうやら国産のようだ。

 部品は何とかなるかもしれない。

 でも、古そうだから不安も残る。

 バイクや車の部品は発売中止からある程度の時間が経つとメーカーでの生産が中止され、在庫だけの対応になることが多い。

 だから整備には他の車種の部品を流用したり加工したりして補う。

 当然、現行車より手間も金もかかる事になる。

 俗にいう沼だ。

 俺はこのバイクを手にしたせいで片足を突っ込んだようだ。


 書類もあるはずだと親父さんが言っていたのを思い出す。

 リアシートの中にあるはずだとも。


 キーをメインスイッチから抜き、車体の左側にあるヘルメットホルダーに差し込んで右に捻る。

 ちょっと引っ掛かる手応えと「ガチャッ」という音と共にリアシート部の座布団が微かに浮き上がった。当然、動きはかなり渋い。


 座布団を持ち上げるとその下には小さな空間があり、車載工具と思わしき黒い包みとビニール袋に入った書類があった。


「自動車検査証返納証明書」と書かれた書類には、車名欄に「スズキ」、型式欄に「NK42A」とあるだけで名前は分らなかった。

 でも、これで調べられるだろう。


 一緒に入っていた自賠責保険の写しの期限は平成十五年三月七日までとなっていた。今は令和三年だから二十年近く動いてないようだ。


 これ、ホントに動くのかよ

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