鵞鳥が飛んだ

銀ビー

第1話 気になっちゃったんだよ

 三連休の初日。その日は引っ越しの手伝いで友人の家に来ていた。かれこれ20年以上の付き合いだったが転職を機に、実家を出ていく事を決めたそうだ。


 ここは小さな田舎町だ。素晴らしい景観の観光スポットや有名な特産物があるわけでもないありふれた田舎町。近くのスーパーまでは車で15分。ショッピングセンターなら30分以上かかる。ロクに信号も無い道なのに。勿論、コンビニなんてない。


 ここにいれば顔を合わせるのは家族と職場の年寄りだけだ。異性との出会いなんて夢のまた夢。先がないんだ。だから奴が出ていく気持ちもよく分かる。


 レンタカーのトラックに荷物を一通り積み終わった時に、ふと視線を向けた車庫の奥で、埃を被った銀色のカバーのかかったそれを見つけた。


「おい、あれ何?」


「ん、何だったかな〜」


 近づきカバーを少しめくって中を確かめる。


「くっ、埃すげぇ。ああ、兄貴のバイクだ。こんなとこに置いてあったんだ。何年置きっ放しなんだよ」


「そりゃあいつが出てく時に捨ててくれって置いてったやつだから、使うなら持って行っていいぞ。動くのか知らんけど」


 俺たちのやり取りを見てた親父さんが口を挟む。


「確か、鍵もつけっぱなしだ」


 一気に剥がされたカバーの下から現れたのはちょっと変わった形のバイクだった。


「ゲホゲホ、いきなりめくるなよ親父 ! 埃凄いんだから」


「タイヤは潰れちまってるしチェーンも錆だらけだな。やっぱり屑鉄に出した方が早いか」


「いや、捨てるなら下さい」


 俺はその鮮やかな青色の車体を見た瞬間から目が離せなくなり、気が付いたらそう口にしていた。




「さてどうするか」


 俺は自宅の倉庫小屋で埃塗れのバイクの前で腕組みしながら悩んでいた。


 引っ越し作業が一段落してからバイクを家まで運んでもらったのだが、その作業も一苦労だった。


 タイヤの空気が抜けきっているためまともに押すことが出来ない。仕方ないので手動の空気入れで頑張って空気を入れる。これだけでも大汗だ。


 タイヤが何とか膨らんだので動かそうとすると、今度はブレーキが固着しているようで滅茶苦茶力を入れても僅かしか動かせない。


 悩んだ結果、ブレーキオイルを抜いてピストンの圧を下げてからキャリバーをディスクから外す事にした。


 フロントは固定ボルトを外したキャリパーを何度か左右に抉ったら抜けた。


 リアは変な造りで、アクスルシャフトが貫通していてキャリパーを外すにはホイールを外す必要があるようだ。なので外すのは諦めてオイルを抜くだけにした。


 ブレーキオイルはすっかり茶色く濁り、放置されていた時間の長さを感じさせた。


 そんな事に時間を取られているとタイヤが半分潰れていた。仕方なくまた空気を入れる。そしてまた大汗。


 そうしてようやく押して移動できるようになってから、親父さんの軽トラに耕運機用のラダーを使って載せ、ここまで持ってきたのだ。


 親父さんは帰り際に


「ダメだったら気にせず捨てちまっていいからな」


 と言い残して帰って行った。


 俺の前にバイクの形をした鉄屑を残して。トホホ




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