第4話 借りはすぐにでも、数倍にして返してやらぁ!

 気がつけば俺は、あっという間に高度1,000mに達していた。

 このヴェルリート・グレーセアは、シュタルヴィント改じゃ及びもつかねぇ出力と反応速度を秘めてやがったんだ。


 それだけじゃねぇ。

 シュタルヴィント改じゃ心もとなかった反応速度が、ヴェルリート・グレーセアになった途端に、俺の思い通りに動くようになった。俺の技量に、機体が追いついた感じだ。


「すげぇな、オイ……」


 なぁんて感慨にふけっていると、多数の空獣ルフトティーアが迫りくる。

 無理もねぇ。ヤツらにとってよく目立つ黒色に、40mの巨体。目立たなけりゃ逆に不気味だ。


 だが。今の俺にとっちゃ、どれもこれも慣らしの相手に過ぎねぇもんだった。


「行くぜ……陽影はるかげ、そして月影つきかげ


 陽影に月影。ヴェルリート・グレーセアの両腰に備え付けられた、二振りの大剣だ。今はたこ型に近い八角形の、“さや”の姿だが。


 これは俺が名付けたワケじゃねぇ。既にその名が与えられていた――それを、俺はただ復唱しただけだ。さっき得た、ヴェルリート・グレーセアの知識を元にな。

 けど、その名を呼ぶと、どういうワケか双天一真流を思い出す。


 わずかに大剣にエネルギーを送ると、八角形の鞘の上面が格納・展開し、内部に秘めた太いつかを晒す。開いた上面は、そのまま刃のある鍔へと転じた。


「切れ味は、てめぇらで試してやるよ!」


 一般的なアドシアの全長を上回ってそうな刃を持つ大剣をそれぞれに構え、俺はヴェルリート・グレーセアを勢い良く前へ進ませる。

 そして、最初の一振り――ッ、なんて軽さだ!


「すげぇ! すげぇよ、お前!」


 我を忘れて叫ぶほどに、俺はヴェルリート・グレーセアの性能に酔いしれていた。シュタルヴィント改とじゃ比較にならねぇほどに、剣を振るう動作が軽く、しかも鋭かった。余計な力が無い、その上で切れ味はさっき以上だというのを、数度の斬撃で実感した。


 これなら、さっきの三首竜サーベロイ・ドラッヒェにも勝てる! 俺はそんな確信を、そしてワクワクを抱く。


「待ってろ、すぐに戻ってきてやる!」


 さらに迫る空獣ルフトティーアを切り刻みながら、俺は再び黄土色の竜の前に立つ。

 そして、ガラじゃねぇが……俺は決闘を挑むように、呼びかけた。


「おい、さっきはよくも好き放題暴れてくれたな。おかげでちちまったじゃねぇか、あぁ?」


 俺のタンカが聞こえているのか、三首竜サーベロイ・ドラッヒェがこちらを向く。


「今からテメェをぶった斬る。文句はぇよな!」


 言い切ると同時に、有無を言わさずヴェルリート・グレーセアを加速させる。同時に、ヤツも口から重素グラヴィタのビームを放ってきた。


 だが、その程度の狙いなら簡単に見切れる。機体を軽く左に動かすと、ビームはすぐ右脇を通り抜けた。

 続く二つ目三つ目の首がビームを同様に撃つが、らせんを描くようにして避ける。この動きなら、下手に追撃すれば首が絡まりかねぇからだ。


 案の定首が絡まるのを嫌がった三首竜サーベロイ・ドラッヒェは、ビームでの攻撃を諦めて接近戦を挑む。

 10mの頭からくる噛みつきだ、アドシアが食らえばタダじゃ済まねぇ。おまけに首は、ただ斬っても再生するときた。


 けど――タダじゃ済まねぇのはあくまで、“普通の”アドシアなら、だ。

 ヴェルリート・グレーセアなら、少なくとも一撃で胴体を噛み千切られるこたぁない。その安心感と俺の勘を頼りに、俺はひたすら首を斬りはらいながら前へ前へと進み――ある場所で、一瞬静止する。


「今だ。テメェにとっておきを見せてやるよ」


 俺は大剣を中段に構え、精神を集中する。

 ヤツの三つ首も再生してるこったろうが、それより俺が動くのが速い。


「双天一真流奥義――“双天そうてん”」


 大剣を中段から下段に移行するように、しかも同時に振るう。

 Xエックス字に、ヤツのなげぇ首が切り刻まれた。


 破壊はそれだけじゃねぇ。

 振るった斬撃の余波が、ヤツの胴体をもまたX字状に、スッパリと引き裂く。


 その結果、再生力の限界を超えて傷ついたヤツ――三首竜サーベロイ・ドラッヒェは、ゆるやかに肉体を上昇させながら消滅した。

 後にはただ、紫色をしたゼリー状の大きな重素臓ゲー・オーガンが残る。


 出現頻度『稀少』――250年の寿命を全うしても1度か2度出会えるか、という珍しさと、多数のアドシアを相手取ってもそうそう負けねぇ頑強さ。

 それが三首竜サーベロイ・ドラッヒェってヤツだった――が、俺の乗ってるヴェルリート・グレーセアの前じゃ、そんな常識もどっかに行くってもんだ。

 現に、傷一つ付かずに勝っちまったんだからな。


 おっと、ボーッとするのもそこまでだ。

 俺は周囲の味方に呼びかける。


「アークィス、そっちはどうだ?」

『ああ……こちらも片付いた。応援が来てくれたからな。正規軍に……王族の戦艦までいるぞ。ところで、アンタのその機体は……?』

「さっき墜落したら拾ったよ。まったく、なんであんなとこにシュタルヴィント改以上のもんがあんのか」


 俺は適当にいなしながら、通信相手の言葉を思い返す。


 王族の戦艦。

 このヴェルセア王国じゃ珍しくもねぇ話だ。王族といえど、空獣ルフトティーアとの戦いには駆り出される。といっても、アドシアに乗るってよりは戦艦の司令官を務めるらしい。特に四男四女以下は、手厚い支援があるとはいえ……かなり頻繫に、戦わされるって学んだぜ。スパルタのレオニダス王かっつーの。


『そこの黒い機体、聞こえますか?』


 と、女性の声が通信を繋げてくる。


「んあ? 聞こえてっよ。何だ?」

『ただちに、私の座乗艦“ドミニア”に着艦してください。従わない場合は砲撃します』

「おいおい……そいつぁやだよ。さっさと従うから、着艦許可を寄越せ」

『許可します。ガイドビーコンも出してあります』


 せっかくのヴェルリート・グレーセアに傷をつけられちゃたまんねぇ。

 つーか、俺はこれでもヴェルセア王国民なので、そもそも王族に逆らうつもりもねぇ。自由気ままにとはいうが、ケンカ売っちゃいけねぇ相手くれぇはいくらなんでも知ってるっての。


 そういうワケで、めんどくせぇが素直に着艦しといた。


「にしても、今の声……もしかしなくても、王族だよな?」


 これからもっとめんどくせぇことになる予感を抱えながらも、俺はコクピットの外に出たのであった。

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