第28話【隙間】

 見知らぬ村だった。道路は舗装されておらず、踏み固められただけの白っぽい砂の地面が、時折吹く風に塵を巻き上げていた。縁日のような雑多な小間物屋が木造の家屋の軒先に開かれており、狭くまっすぐでない道を人が行き交う。ぼくの目に入ったのは、立派な梅の木だった。それも、打ち捨てられた自動車から生えている。車のスクラップ場のように、縦に二台積み重なった車の、上の車から梅の木が生えて、立派な枝ぶりに白い花を咲かせていた。フロントガラスから見える車の中は降り積もった土と木の根でいっぱいで、ドアの隙間から木の根が外に顔を出していた。下の車には根が伸びていないのが不思議だったが、上の車と梅の木の重量でひしゃげて、地面にめり込んでいた。その大きな梅の木はまるでご神体のごとく村の中心部となっているようで、その周りを人々がごく普通に歩いていた。近くにはところどころ剥げた白いペンキで塗装された医院の建物があり、妊婦や怪我人がひっきりなしに出入りしていた。

 無声映画のような村の中で、突如小さな車が暴走し始める。人をなぎ倒し、砂を蹴立てる車をよけようと、狭い道の中を人々は逃げ惑う。それを不自然に俯瞰していたぼくは、はっと目を覚ました。夢だった。奇妙に不気味な夢を、ぼくは時折見るのだ。ぼくは寝床の中で溜息をつき、時計を見た。まだ起きるには早い。もう一度寝よう。あの夢の続きがまたやってくる気配に心のどこかで怯えながら、ぼくは息を整えつつ目を閉じた。

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