第25話【ステッキ】

 紅葉のトンネルを抜けた先には、立派な朱塗りの門構えと無数の石段、そして修行じみた山道がある。紅葉の見頃のシーズンともなれば人が増えるのも自明であるのだが、それで山道の険しさが変わるわけではない。ここから山道と書かれた寺の勝手口のような山門の脇には白木の杖が置かれており、行き交う人が次々と持っていくのでぼくも流れで手に取ったのだが、なるほどこれは杖がないときついし足場が心もとない。先人たちに感謝だ。白木の杖を持たない人でも、登山用の杖、あれはなんという名前だったか分からないが、ともかくハイキングとかで見かける杖を両手にストラップをかけて持っていたりした。賢い。

 これは寺の参拝ではあるが、同時に山道での修行でもある。遥か昔に、かの半分伝説のような御曹司も天狗と共に修行したとか、だから敵陣の背にしていた崖を馬で駆け下りるだの舟を八双跳んで敵に迫るだのといった奇策を実行できたのだとか――そんな眉唾ものとも思えそうな話を思わず信じてしまいそうな山道だった。最初こそ浮かれた様子で話していた四、五人の連れの人々も、徐々に無口に、ただ無心に歩くようになってゆく。木の根がところどころ浮き出た道、急な階段を息を時折整えつつ、自然と列をなして黙々と歩いていく様は、各々縋る杖も相まって、まるで巡礼者の旅路のようだった。

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