第18話【旬】

 里芋と人参の皮を剥いて一口大に切り、空の小鍋に入れた。水は具が浸るくらいの量、顆粒だしを適当に加えて火にかける。蓋をして沸騰したら、料理酒と砂糖、薄口醤油とみりんを適当に入れてもう一度ひと煮立ちさせた。銀杏入りのがんもどきを入れて、蓋をしたまま弱火で煮込む。頃合いを見て、里芋と人参が柔らかくなったら出来上がりだ。

 連泊歓迎のホテルは、建物内に食事をできる施設がない代わりに、個室内に調理器具や食器が一通り揃っているのが売りだ。外食ばかりでは費用がかさんでしまうから、自炊をして節約をしたい人間にはうってつけである。近所のスーパーで小さめの調味料のボトルの価格を見た時は、いやこっちの方が割高なのではと思わないでもなかったが、まあそれは考え方や作るもの次第かもしれない。ともかく、旬のものが食べたかったのは事実だった。炊飯器はなかったのでご飯はレトルトのものだが、茶碗に盛ってテフロン引きのフライパンで焼いた塩鮭の切り身をほぐして乗せれば、なかなかどうして見栄えがする。いただきますと手を合わせて、煮物を口に運んだ。里芋と人参はほくほくしている。がんもどきにはよく煮汁がしみて、じゅわっと口の中で出汁と醤油の味が広がった。適当に作った割にはうまくできたなと自画自賛しつつ箸を勧めていたら、あっという間に食べ終わってしまった。でもまだまだ、料理は片付けるまでが料理だ。やれやれとぼくは温まった体を立ち上がらせて、流し台に食器を運んだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る