第16話【水の】

 水の流れるような音楽だと思った。ホールの近くを通って、ポスターが良かったからという理由でふらりと入った演奏会だったが、予想以上に良かった。

 近隣の大学オーケストラらしい。全席自由で、当日券もすんなり買えた。一般に良い席と言われる一階席や二階席の中央部は混みあっていたので、ぼくは三階席に続く階段を上った。三階席はホールの壁にくっつけたバルコニーのようになっていて、張り出した前面の席からは舞台上がよく見えた。さすがに三階席までやってくる人は多くはなかった。

 舞台上の奏者は、女性は上下黒のワンピースやドレス、セットアップ。男性は礼服に蝶ネクタイ姿だった。年若いからか、衣装に着られているような人もいる。しかし、楽器を手にすれば雰囲気はがらりと変わった。音楽に真摯に向き合っているのだろう、ぼくにはどの人も眩しく見えた。いかにも大人しそうな顔つきなのに、楽器を操る動きは俊敏だったりする。街中で見かけたら無邪気な若者に見えたであろう人が、思いがけず緊張感のある音を創り出す。それは、彼ら彼女らの本質なのかもしれないし、演じているのかもしれない。ぼくにとってはどちらでもよかった。ただ、たくさんの楽器が合わさって奏でる音は清い川のように、時折白いしぶきを散らしつつも、うねり、走って流れていく。ああ、フィナーレがもう終わりそうな予感がする。もっともっと聞いていたかった。そう思いつつも、ぼくは走る川の行く末を見届けようと姿勢を正した。

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