第14話【裏腹】

 明日は晴れという昨日の天気予報とは裏腹に、にわかに空はかき曇り、雨天の様相を呈してきた。傘を持っていなかったぼくは、近くにあった蕎麦屋の軒先に逃げ込んだ。途端にぼつぼつと降り出す大粒の雨に困惑の溜息をひとつ。もう昼近かったし、ついでに昼食もここで済ませてしまおう。案内された席は、中庭の窓に面した一席だった。

 にしん蕎麦を一杯頼み、先に運ばれてきた蕎麦茶の湯呑に口をつける。外は寒かったから、淹れたばかりの茶の熱さがありがたかった。今度は純粋な安堵の息をほうと吐く。目の前の窓からは、篠突く雨が中庭にまだらに生えた苔に降り注ぐのが見えた。ぼくは雨を厭うて屋根の下に逃げ込んだけれど、冬の近いからっ風に水分を持っていかれた苔たちは、久々の雨を喜んでより青々としているように見えた。硝子窓で隔てられたぼくと苔は、かたや雨に喜び、かたや雨を避けているのに、物理的な距離だけは近い。

 にしん蕎麦が運ばれてきた。出汁の香り高く、にしんの甘露煮は柔らかそうな身をしていて、細かく切られた薬味ネギを装身具のように纏っていた。伸びないうちに頂こうと思い、ぼくは雨の庭から目を離して割り箸を割った。

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