第13話【うろこ雲】

 コンクリートジャングルとは都会の風景を指していう言葉だが、ぼくはそこまでのジャングルらしさを感じはしなかった。ジャングルに実際行ったことはない。けれど、ジャングルというのは高い木々が生い茂るところは都会のビル街と似ていても、それらから伸びた枝葉が空を覆い、鬱蒼と暗いイメージがある。ぼくが見上げたビルの森の上には、しっかりと空が見えた。うろこ雲が広がるスカイブルーが、ビルに嵌め込まれたガラスに反射して、空の湖の底にいるようだ。水面に浮かぶうろこ雲から顔を出したら、どんな風景が見えるのだろう。飛行機で飛ぶときの雲の上は、雲の下の天気に関係なく純粋な青をしているから、同じ色が見えるだけかもしれない。地球が宇宙にぽっかり浮かんでいることを思えば、あのうろこ雲の水面も、本当は水面なんかじゃなく、宇宙という大きな空間の中にあるたかだか一つの境界面に過ぎない。では、その外は?

 想像も及ばない果てしない遠くに少しでも近づきたくて、ぼくは虚空を二本の腕で掻いたけれど、当然浮かんでいくことなんかなくて、ぼくはビルのかたちをした水草の間から抜け出せもしなかった。影送りをすればあのうろこ雲の水面に浮かぶことくらいはできるかもしれないけれど、それはいつのことなのだろう。

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