第12話【坂道】
坂道というのはなぜこうも唐突に現れるのだろう。自分の立って見回した高さでは、建物に遮られて見えなかった上りの坂道が、曲がり角を曲がった途端急に視界に飛び込んでくる。それも結構な急坂だったりする。
角度のある坂道の両側には、家々が連なっていた。隣の家との床の高さが全然違う。道から玄関に至るまで、何段もの階段が聳えている家もある。坂道に接したところに車庫があったりすると、その車庫の高さ分昇らなければ家の中に辿り着けない。道から家までもちょっとした高低差があり、もし階段を踏み外しでもしたら家の敷地内でもそれなりの怪我は免れないだろう。仮にぼくがこのような家に住んだとして、一年三百六十五日、無傷で過ごせる自信はない。
上り坂に一歩を踏み出す。一歩が途端に重く感じた。この坂を行き来して家から出入りするのもそこそこの労力が必要だ。運動にはなりそうだが。入るために苦労が必要そうな家たちではあったが、階段の一段一段に植木鉢があり、花に彩られた家もあった。塀の上から、つるバラが咲きこぼれている家もある。出入りする苦労の代わりというわけではないだろうけれど、よく手入れされた草花や庭木のある家が多かった。見ている分には目を楽しませてくれる。
次第に息が上がってきた。坂の頂上はもうすぐだ。頂上はまっすぐ水平に引かれた線のように見え、その向こうにあるものは窺い知れなかった。上り切った向こうにあるのは、断崖絶壁かもしれない。海かもしれない。ぼくは息を深く吸い込んで、もう一歩を踏み出した。
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