第5話【秋灯】

 夜は燈火が目立つ。暗くなってきた中で遠目にも見えた橙色の小さな光の許に急いだぼくは、ごく小さな神社に足を踏み入れていた。神社と言っても、生垣に埋もれるような鳥居をくぐって石段をいくつか上った先に、灯籠とささやかなお社があるだけのものだった。それでも、急激に暗くなっていく視界に不安を覚えたぼくが、思わずほうと安堵の息を漏らす程度には、そのお社に灯っていた光は暖かかった。まめに手入れする人がいるらしく、榊の葉は青々としていたし、お社の中の燭台の足元にはこびりついた蝋もない。ご神体らしい鏡の両脇に灯された蝋燭は芯が太いのか、瓦屋根のしっかりとした窓のないお社の中でもしっかりと辺りを照らしていた。灯籠は電気式なのか、神社の紋が暖色の光に浮かび上がっている。ぼくは小銭入れを探り、硬貨を一枚賽銭箱に入れた。空の底に硬貨が当たってちゃりんと音がした。しばらく足を休めさせてください。そう呟いて、ぼくは社の縁側に腰を下ろした。どうぞ、と誰かの声が聞こえた気がしたけれど、振り向いた先に見えたのは、丸い鏡に映ったぼくの顔だけだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る