39.休息
イスフィール家の屋敷で、俺はベッドから動けずにいた。
「調子はどうですかな? アルト様」
「だいぶ良くなりました。あの、もう起き上がっても良いでしょうか……?」
「ハッハッハ、いけません」
テットは笑いながらも、顔が本気だ。
起き上がるくらいは問題ないんだけどな……。
俺は【付与魔法】の反動を受け、あれから立ち上がることすら困難になっていた。
(痛みとしては、筋肉痛のようなものだから、もう少し時間が経てば完全に治ると思うけど)
(……時間稼ぎだけで良かったのかもしれないけど、熱くなっちゃったんだよなぁ)
部屋のドアが大きな音を立てて開く。
「……ジー」
隙間からレア王女殿下がこちらを覗いていた。
その背後にはウルクも居て、様子を窺っているようだ。
「入っても良いのでしょうか……?」
「さ、さぁ……元気そうだぞ?」
二人の姿を見て、ちょっと安心する。
苦笑いを浮かべて、
「大丈夫だよ、入って来ても」
と教えるとレアが動けない俺に、飛びついてきた。
「アルト様~!! 元気になられて本当に良かったです!! わたくし、心配して夜も寝ることが出来ず……不安で胸がいっぱいでした」
「ぐふっ……すみませんレア王女殿下。ご心配おかけしました」
「いえ、アルト様は何も悪くないのです……本当に悪いのはマルコスですから……アルト様をこんな目に。後で罰を与えねば」
「ま、マルコスさんは悪くないですから」
俺が無理して倒してしまったことを伝えるも、やはりレアは納得が行かないようで頬を膨らませていた。
「アルト、普通は無理をしても
女王バッタよりも強かった。
火に対して、相当弱いということが分からなければ勝つことはできなかっただろう。
「そういえば、マルコスからこれを預かりました」
「なんですか? ……種?」
小さな丸い茶色の種を渡される。
色合い的には、
「さぁ……わたくしには分かりませんでしたが、あの場に落ちていたからアルト様の物ではないか、と」
(なんの種だろう……後で植えて見ようかな)
すると今度はドタドタと廊下から数人の足音が聞こえてくる。
「アルトさんが元気になったんですって⁉」
「会いに来ましたの!!」
「アルトさんのために高級和菓子を持ってきましたわよ~! お風呂のお礼ですわ!」
ミランダさんの知り合いである婦人たちがお見舞いに来てくれた。
しかし、その直前にテットによってドアが閉められる。
「どうやら、アルト様は婦人たちの間ではかなりの人気者のようですな。これでは安静にすることもままなりません」
「そのようですね……皆さん悪い人じゃないので、俺は大丈夫ですよ」
「いけません。レーモン様からも、最近はアルト様を頼ってばかりで、休ませていないと申しておりました。少しでも休んでください」
気を遣わせちゃってるなぁ。
申し訳ない、と思っているとウルクに頬を掴まれた。
「アルト、みんなお前に休んで欲しいと思ってやっているんだ。気を遣っているだなんて思わなくて良い」
「ウルクは心が読めるのか……?」
「顔で丸わかりだ。お前は相変わらず、分かりやすい」
ウルクがクスッと笑う。
それを見てレアが、
「おや、ウルクも同じ様な物でしょう?」
「なんだレア。私はそんな感情が顔に出るタイプか?」
「アルト様がマルコスと一緒に
「わ、わー!! 言うな!!」
な、なんの話だろう……。
頬を赤く染め、ウルクは髪を乱すほど焦っていた。
ドンドン、とドアが叩かれる。
婦人たちの声がした。
「開けてくださいまし!! アルトさんにぜひお会いしたいですの~!」
「いるのは分かってますのよ⁉」
レアが溜め息を吐いた。
「わたくしが黙らせてきます」
「僭越ながら、私もお手伝いさせてください」
レアとテットがその場から離れていく。
(みんなの厚意を無駄にはできないな。ちゃんと休もう)
そう思って体の力を抜いてほっと息を吐いた。
すると、ウルクが俺の横に座った。
「アルト……よく頑張ったな」
「うん、頑張った」
「頑張った奴にはご褒美をやらないとな。だからその……少し目を瞑ってくれ」
うん……?
言われた通りに目を瞑る。
柔らかい手の感触が、頭に乗った。
「お前はいつも頼もしい……レアもお母様も、みんなお前に救われた。きっと、名も知らぬ人もお前は救っているんだ」
「それは」
「当たり前だ、と言いたいんだろ? 本当に優しいな、お前は」
むず痒くなる。
正面からこう言われると、恥ずかしい。
でも、やって良かったと思えることは多くある。
「前にも言っただろ? お前はもっと自分を大事にしろ。アルトを大事だと思う人がいっぱい居るんだ。不安にさせないでくれ……」
「……ごめん」
そこは本当に申し訳ないと思う。
イスフィール家のみんなにも、レア王女殿下にも心配をかけた。
「私は、心の底から、アルトのことを大事に思っているからな」
「あぁ……ありがとう」
みんなを守ることができて、本当に良かった。
今回の
・Sランクの魔物を二体討伐
・一代限りの男爵貴族
・新たに与えられる未開拓の鉱山
一代にしてここまでの功績を残したアルトは、王国の歴史上においても異例のこと。
また、正規の王国騎士にしてはどうか、官職につけてはどうか、という話も上がっており、王宮ではひと騒ぎが起こっていた。
アルトは窓際にある花瓶を眺めながら、ふと魔道具の事を考える。
(……そろそろ、思いついた魔道具を作ろうかな)
呑気にそんなことを考えていたアルトは、自身の置かれる立場に気付いていなかった。
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