35.魔道具


 その日の晩、ミランダに呼び出された俺は執務室に足を運んでいた。


 そこにはイスフィール家のみんなもいた。


「これが魔道具の素材になる超高濃度魔鉱石ですか?」

「ええ、そう。これを使って作るの」


 目の前に虹色の輝く鉱石が置かれていた。


 超高濃度魔鉱石の性質は、周囲の魔力を集めるというもの。


 そのため、色が濃いほど濃度が高く、高い効果を発揮する魔道具を作ることができた。


 横からフレイが口を挟む。


「母さん、いくらアルトと言えども、魔道具を作ってもらおうってのは無茶じゃないかい?」

「あら、そうかしら。その割にはアルトくんは否定的なことを一度も言ってないけど?」


 ミランダの鋭い視線と目が合う。


(流石にミランダさんは鋭いな……)


「アハハ……実は作れるんだ」

「……本当かい?」

「本当だよ。選んだ効果を【付与魔法】で超高濃度魔鉱石にあたえて、元となる道具と【調合】するんだ」


 魔道具は超高濃度魔鉱石の特性を引き継いで、周囲の魔力を利用して誰にでも使うことができる。


 だから素材として必須なんだ。


「ほっほっほ……簡単に言うが、そんなことができる人間は普通はおらんのじゃぞ……」

 

 正直なところで言えば、魔道具に言うほど興味はなかったし、作ろうとすら思わなかった。


 中には、たくさんの魔物を呼び出して範囲攻撃をする魔道具や人の心を操る魔道具などもあるらしい。


 だけど、俺には必要のない代物だと考えていた。


「作ろうとは思わなかったですけどね……魔道具は────人を殺すために作られますから」


 その意味を理解したウルクが俺を庇うように言う。


「殺すだと……お母様! アルトになんという物を作らせようとしているんだ‼︎」

「そうじゃな。アルトを戦争に利用することは許さんぞ、ミランダ」


 そう、魔道具は基本的に攻撃する手段として作られることが多い。


 戦争で大活躍するもの、そう言った印象が俺の中だと強い。


「すみません、ミランダさん。俺は人を傷つけるために、魔道具を作ることはできません」

「あらやだ……うーん、そういうことじゃなかったのよねぇ〜」

 

 何やら悩んだ素振りを見せ、


「アルトくんのとんでもない発想力なら、何か凄い物を作れるんじゃないかなって思ったのよ。美肌関係の物とか」


 その場にいた全員が、なんと投げやりな……と言った顔をする。


「そ、そういうことだったのか……お母様、あまり驚かせないでくれ」

「良いのよ、ウルク。で、アルトくんならどういうのを作る?」


 俺が作るなら……か。

 うん、絶対に人の傷つける道具にはしたくない。


 誰かの助けになるような物が良いけど……。


「生活を楽にする魔道具……でしょうか」


 そうつぶやくと、沈黙が訪れた。

 えっ、何か悪いことでも言ったのだろうか。


「あ、アルト……もっとこう、自分のためになるような魔道具を作ってもいいんだぞ……?」

「ハハハ! まさか戦争で使われる魔道具を、生活を楽にするためにって……アルトくん、君は優しすぎだよ」

「いや、でも。当然のことだと思うし」


 レーモンが高笑いする。

 思わず戸惑ってしまった。


 確かに魔道具は戦争の道具だけど、使いようによっては人のためになるだろう。 

 暗黒バッタだって、最初は人に害を成す物だったけど、今は人の役に立っている。


「ほっほっほ! アルトらしいではないか! して、詳しく聞かせてくれぬか」

「いえ、まだそこまでは……」


 方針だけでも決めておきたいと思っただけで、具体的なことは何も考えていない。


 すると、部屋にノックの音が響いた。

 テットが入ってくる。


「おや、みなさまお集まりで……魔道具の話ですかな?」

「そうじゃ。アルトが人のためになる魔道具を作りたいと言っておってな」

「それはアルト様らしい。ところでフレイ様、お手紙が届いておりました」


 そう言ってフレイに手紙を渡した。


「うん? 誰からだろう……あっ師匠か」


 師匠……確かフレイの師匠って王国騎士の団長だっけ。


 手紙を読んだフレイが、次第に険しい顔つきになっていく。


「……テット。ここから師匠のいるゲリオット街まで、手紙だとどれくらい掛かる?」

「三日ほどかと」

「三日もか……もっと細かいことを確認したいが……やはり手紙は不便だな。時差がありすぎる……」


 手紙、という言葉を聞いて何かがふわっと浮かび上がる。


(なんだろう……今何か閃きかけたような)


 遠い人と連絡を取り合うには、手紙以外に方法はない。

 魔道具なら、もしかすれば遠距離でもすぐに言葉を伝える物を作れるんじゃないか?


 少し悩んでいると、

 

「アルトくん、母さんを助けてくれた時にAランクの黒狼マルコシスと戦ったんだろう?」

「あ、あぁ……倒したけど」

「なんでそんなあっさり……いや、それよりも何か違和感はあったかい?」


 言われてみて、あの時のことを思い出してみる。

 ちょっと強い魔物だったけど、印象に残ったことはあまりない。


 ……いや、倒した時に黒い霧が出ていたのと、何かの視線を感じた。


 その時のことをフレイに詳しく伝えた。


「気のせいかもしれないけど、変な気配はした」

「……それは気のせいじゃないよ。滅尽の樹魔エクス・ウッズに間違いないと思う」


 俺以外の人たちが焦った顔になる。

 あまり魔物には詳しくない俺からすれば、どんな奴なのか想像ができない。


「数百年に一回出現する、魔物を操る魔物。人に悪意を持った、Sランクの魔物だよ……」

 

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